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第63話

「別に、見道自体がまずいわけじゃないのよ」

 三人で囲むテーブル。

 両親から溜息混じりの了承を得た白蓮は、しれっと食卓に――千鶴の隣に座っている。

 千鶴が頭を悩ませながら工夫した結果、料理はきっちりと白蓮の分まで用意された。千鶴手製の料理の数々は几帳面な彼女らしく文句のつけようもない出来である。

「あなたも知ってるでしょう? 見道の『本家付き』」

「仲良しです!」

 即答する声の明るいこと。千鶴は言及しようか迷いつつも結局スルーした。

「……そう。見道は巡回任務にもちゃんと人を送るし、本家付きも何人か出してるわ。分家としての動きにも問題はない――高嗣様が気にされていたのは、あのビジネスだけよ」

「見道ミスティックスクールですね! あ、チラシがあります。駅前で配ってて」

 白蓮が取り出したチラシは彼女の正面に座る律己が受け取った。駅前で配られるチラシなどまず受け取ることがない彼が物珍しさを感じたのはほんの一瞬で、あとはそのあまりの怪しさに眉を顰める。

「……こんなものに人が集まるのか?」

「大盛況でしたよ。みんな清弦さんのお話に夢中になってました」

「清弦、っていう人なのね? スクールを取り仕切ってるのは」

「はい。当主じゃありませんよね。名前も聞いたことがなくて誰だかわからなかったので、姉さまに聞きたくて」

 分家の知識は、本家の人間と話していればそれなりに手に入る。とはいえ妙に淡々とした白蓮の言い振りに、千鶴は若干引きながら答えた。

「そうね、私も話したことがないと思うわ――きっと陰陽師としての活動のほうにはあまり積極的じゃないのね」

「……実力がないってことですか?」

「いや」

 否定したのは、意外にも律己のほうだ。

「見道のスクールはちゃんとビジネスになっている。それらしい活動ができる分、他より優秀なはずだ」

「――なるほど!」

 篁分家に生まれているというだけで、土壌としてはみなそれなりのものを持っている。白蓮のような例外もいるが、その場合は曲がりなりにも霊視などできない。

 陰陽師としての活動をするだけなら話術はいらない。律己はそんなふうに言いながらも、不審そうにチラシを妹に返した。

「しかし、そんなに感動するほどだったのか」

「はい! えーっと、前世で雷に打たれて亡くなったとか、前世の奥さんと今回も結婚してるとか! 当たってました!」

 元気よく答える白蓮とは裏腹に、兄夫婦の視線は冷たい。

「……それ、当たってるの?」

「信じたのか、そんな話を」

 あの熱狂の渦の中にいなかった者としての実にリアルな反応だった。

「ほ、本当に凄かったんです!」

 食い下がる姿が逆に怪しい信者のように見えたらしく一向に本気にされない。白蓮は拗ねつつも尋ねる。

「でも、高嗣様は結局は認めてるんですよね? あのスクールのこと」

「ええ。まあ、認めざるを得ないんじゃないかしら」

「どうしてですか?」

「見道の家は、そこまで戦闘能力がある訳じゃないもの」

 白蓮の「興味津々」という視線を受けた者は、不思議と多くを語りたくなる。千鶴も、もはやそんな中の一人だった。

「霊視とか占いとか、権力者に重用されても――権力者そのものにはなれないわ。見道もそうだった。八束なんかの派手な分家にはどうしても勝てないの、だから……そうね。分家にも生きていくための基盤が必要でしょう?」

 渋々認めている、ということだろうか。

 陰陽師としての彼らの得意分野では一定以上の地位にはなれないと、本人たちも思っているのだろうか。そんな風に考えた白蓮の顔がわずかに曇る。

「……なんだか、切ないです」

「随分ぼったくってるらしいけど、その分ビジネスは順調みたいだし大丈夫よ。私はあの家、好きだし……全体的に話が分かる人達なの。無駄に揉めないっていうか」

「無駄に揉めない?」

「千鶴」

 義妹を励ますためとはいえ当時の苦労が思い出されたのだろう、やや口調の色が変わった妻を律己はすぐに見咎めた。大丈夫か、大丈夫、と続く微笑ましい夫婦のやりとりを見ながら白蓮はひとつ頷く。

(そうか)

(「無駄に揉めない」――「実力者」かあ)


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