「うし、お待たせ」
「えぇ。紹介したい友人がおるの、夕飯はその子と一緒に食べましょ?」
「いいぜ。黄戸菊の命令は絶対だからな」
「ふふっ、命令なんてしてへんわぁ」
歩く彼女の手は、すっかり乾いていた。
――二人が座る前には、幼女と赤子を抱く母親がいる。
「……おい、こんな格好の奴、幼女の前に連れてきちゃダメだろっ(ボソッ)」
「くれぐれもバレへんようにね?(ボソ)」
優しく微笑む彼女に恐怖し、布団の繋ぎ目を強く握りしめる。
これ以上失態を晒すわけにはいかない。未来ある幼女にトラウマを植え付けるわけにはいかない。
「初めまして。先ずは数々の御見苦しい姿を見せた事、深く謝罪します」
とりあえず母親に頭を下げておく。和気藹々はそれからだ。
「いえいえ、お気遣いなく。紗命ちゃんが連れてきたのだから、いい人なのは分かりますよ」
「有難うございます」
「……ねぇねぇ、なんでおふとんにくるまってるんですか?」
東条の奇怪な見た目に、当然かな幼女が興味を示してしまう。
「ん?俺寒がりなんだよ。こうしてないと動けないんだ。お名前なんていうの?」
「はるの 花です。八歳です」
「綺麗な名前だね、俺は東条 桐将。二十二歳です。よろしく」
「よろしくおねがいします」
器用に繋ぎ目から手を出し握手をする。
「私は春野 蕾。この子は娘の
「こちらこそ」
――「……あったかそう。花も入れて?」
他愛もない会話をしていると、突然花氏がとんでもないことを言い出した。
「え、いや、すまない。これは一人用なんだ。無理なんだ」
「えーいじわるー。お兄ちゃんだけずるいー」
花が掛布団に手をかけようとし、東条は必死にそれを躱す。
「ダメだっ。この下には無限の宇宙が広がっている、君にはまだ早いっ」
「あははっ、まてー」
風圧で翻らないようにぎこちなく走る彼を、面白可笑しく幼女が追いかける。
「……最初見た時はびっくりしたけど、良い人だね」
「はい。半裸ですけど、根はええ人なんです」
「ふふっ」「ふふっ」
冷えた夜に笑いを届ける二人を、女性二人だけでなく、屋上の皆が温かく見守っていた。