――「おはようさん、……何しとるん?」
朝早くからストレッチをする東条に、彼女が疑問の眼差しを送る。
「おう、おはよ。今から中に行こうと思ってな」
「……一人で?」
「勿論。試したいこともあるし」
平然と言ってのける彼には、恐怖心というものが無いのか。紗命は呆れよりも不安が勝る。
「あと一日は食料も持つし、もう少し後でもええんちゃう?そうや、特訓はもうええの?」
「その特訓の成果を試しに行きたいのさ」
「……怖ないの?」
「怖いってより、強くなってくのが楽しいんだよね。……男だから」
良い笑顔には一切の混じり気が無い。彼の闘争本能を理解することは、並の人間では無理だろう。
「そんなん、あんたくらいやでぇ」
彼女の口から、今度こそ溜息が出た。
「ちょっと身体動かしたいんで中行ってきます」
「……随分軽く言うんだな、君は」
一応報告しておこうと三人に声を掛けた東条だが、散歩でもするのかというノリに案の定驚かれる。
だがそう言えども、彼等に東条の行動を抑制する権利はない。
「俺達が口を挟む事ではないが、気を付けろよ」
「うっす」
それだけ言うと東条は防火扉に向かって歩き出す。しかし、その背中に待ったが掛かった。
「東条はん、うちも連れてってくれへん?」
「え?」
紗命の言葉に全員が振り返る。
「もう少しで食料も無くなるし、ええ機会や思うねん。東条はんは強いし、中も知ってるさかい安全やん?」
確かに一理あることはある。彼が返答に困っていると、
「確かにそうだな、なら俺が行こう。正直まだ心の準備ができてなかったが、紗命の言う通り良い機会だ」
葵獅自ら名乗り出た。
「……葵はんはここで皆を守っとぉくれやす」
「それは紗命の方が適任だろ。残るなら壁を造れる紗命と、一番強い佐藤だ」
「……むぅ」
ド正論にぐうの音も出ない。彼女にしては珍しいことだ。
そこに、止めとばかりに東条も追撃を入れた。
「俺も筒香さんに賛成ですね。そもそも荷物持ち帰る前提なら、黄戸菊より断然筒香さんでしょ」
はち切れんばかりの筋肉が重量を欲して哭いている。荷物持ちにこれほど適任な者はそういない。
「決まりだな。よろしく頼む」
「こちらこそ」
新たなコンビは握手を交わし、冒険の扉へと向かった。