貌だけでなく全身黒に包まれる彼の両腕は、歪な程に肥大化している。
一瞬の内の急変にキングが動揺し、笑みを止めた。
握り潰そうと力むも、全く力が入らない。
「グゲァッ‼ゲァッ‼ゲァッ‼――」
気持ちの悪い感覚に雄叫びを上げ、黒い人型の何かを、これでもかと地面に叩きつける。
しかし、
感触がない。
壊れない。
音がならない。
変化のない世界に怖気を感じ、そのままぶん投げた。
「……ゴルルㇽㇽㇽ」
キングはむくりと立ち上がる『それ』に大戦斧を構え、
「ゴルァアッ‼」
大跳躍。
全力で振り下ろした一撃は、
しかし、『それ』に当たってピタリと止まってしまう。
「――ッゴア⁉」
瞬間、驚愕に硬直した身体を、ガバりと肥大化した両手で掴まれる。
同時に、纏っていた魔力が一瞬で消え去った。
いや、吸われた。
焦りと恐怖に、キングの額から汗が噴き出る。
全魔力を集め抜け出そうとするも、全く力が入らない。
跳ねる様に顔を上げるキングが最後に見た光景は、
敵にべったりと張り付いた、獰猛な笑みだった。
――両側からの尋常でない衝撃にプレスされたキングは、下半身を残して肉片の雨と化す。
「あはははははははっおぼぇっひっあはははははははっばふぁッ」
再び貌を黒く染めた東条は、血を吐きながらその中を笑い転げていた。
何を思って笑うのか、何を嘆いて嗤うのか、それは彼にすら分からない。
ただ止めどなく溢れてくる感情に、彼は身を委ねているだけだ。
「…………」
凄惨な雨が止むと同時に笑い声は止み、今度は目に入った下半身を蹴り飛ばす。
――殴り、蹴り、引き千切り、ぶん投げる。
「…………」
肉片しか残らなくなると、彼はまた止まった。
――ゆらりゆらりと歩いては止まり、歩いては止まる。
――と笑った場所。
――と食事した場所。
――と遊んだ場所。
――と暮らした場所。
何か目的があるわけでもなく、ただ歩き、ただ止まる。
そこに理由は無いし、当然意味もない。
cellというのは、本当の自分であり、もう一つの自分である。
今の彼は、己のcellに呑み込まれた結果。
言わば、彼を形作る概念そのものだ。