昭和の懐かしいメロディがカラオケのスピーカーが流れ始める。
咲夜は、スマホをいじりながら、何の曲を歌おうかなと考えていた。
マイクを持って歌い始めたのは、歌手を目指す琉偉だった。文化祭の軽音部が披露した時はボーカルを担当していた。練習も本格的にボイストレーニングに通いはじめていたため、聞き心地は一般の人より上手かった。
そんな琉偉の歌はあまり興味なかった咲夜は聞き流して選曲するタブレット端末をポチポチと押していた。
「咲夜、本当に久しぶりだよな」
ソフトドリンクのコーラを飲んでいたやっさんと言われる幼馴染の康行は、咲夜の隣に座って声をかけた。
「そ、そうだね。小学生の低学年ぶりだから。9年ぶりかな? 見ない間にやっさんは体がマッチョになっているね」
気の知れた幼馴染。男として意識することなく接することができていた。筋肉トレーニングを欠かせないやっさんはガタイが良かった。スポーツジムに通うのが日課らしい。
「ああ、そうだな。将来は消防士って思ってるから。公務員目指すからさ」
「そうなんだ。昔はひょろっとしてたもんね。本当に、琉偉に言われなかったら、絶対会ってなかったよ」
「咲夜、先輩だろ。呼び捨てかよ。え、まさか付き合ってるのか?」
「あ、無意識に言っちゃった。だって、琉偉は泣き虫で小さかったからなかなか先輩って思えなくて。付き合ってないよぉ。イケメンって言われてる人と付き合えないから」
「むかー! ムカムカするぞ」
マイク越しに冗談めいて話す琉偉。咲夜は気にしていないようだ。
「なんで、イケメンならいいだろう。なぁ、もっくん」
基裕は1人黙々とメロンクリームソーダを飲んでいた。
「へ? 何か言った?」
「聞いてないのか。お前、女子に興味なさそうだもんな。メガネして、ガリ勉かよ」
康行は拍子抜けする。
「俺は、興味ないんじゃなくて余裕がないの。大学受験控えてるのにこうやってる時間も惜しいなって思ってたところだけど、どうしても来いって琉偉がうるさいから」
「だって、大学行ったらみんなバラバラになるって思ったから最後に会っておきたいなって思ってさ」
琉偉は、マイクをテーブルに置いて、咲夜の隣に座った。少し自分の太ももに足が当たって、どきっとした。琉偉は、気にもせず、コーラをガブガブと飲む。 目が合って、ちらっと咲夜を見た。
「てかさ、先輩ってなんで呼んでくれないわけ?」
「だから、まだ幼い頃の記憶が」
「俺、背、伸びただろ? 咲夜、追い越したって」
身振り手振りで背伸びした。数センチだけの違いはあった。まだ康行の方がガタイもよく、背も高かった。
「ま、まぁ、そうだけど。全然会ってなかったし、先輩って言われても、慣れないよ。接点なかったし、むしろ、呼びもできないし」
「呼べって。俺のこと。同じ学校にいるだろ。まぁ、あと数ヶ月で卒業しちゃうけどな」
「……」
突然にそんなこと言われてもっと複雑な表情を浮かべる。
「咲夜、聞いていい?」
「え?」
「咲夜は、彼氏いんの?」
「え、まぁ、彼氏っていうか」
「彼氏じゃないの?」
「うーん。彼氏、いるよ」
「あ、まだ確認してないってこと?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
「お? んじゃ、見込みあるってことかな」
「は? え? ん?」
「あ、次、俺の番だ。歌うから」
琉偉は話の途中でマイクを持ち始めた。気持ちよさそうに歌を歌っている。魂を入れた歌を歌っていて、惚れ惚れとした。
そんな様子を見ながら、テーブルの下で悠からのラインスタンプを確認した。完全にヤキモチを妬いていた。ごめんというイラストのラインを送ったが、既読すらつかなかった。
ため息をついて、スマホをバックに入れた。咲夜は、マイクを握って、
好きなバラードの曲を歌った。
紅一点の男子に囲まれた咲夜は、みんなうっとり咲夜の歌を聴いていた。
ジュースが入ったコップの氷が揺れてカランという音が響いた。