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第27話 複雑な心境

「矢、入ります!」


 悠は、弓道部に所属していた。もちろん、この部活でも悠は女子であるにも関わらず、みんなから声をかけられる人気者だった。


 的に刺さった矢を取る際に、大きな声で叫んで、取りに行く。ちょうど、みんなが水分補給の休憩中で誰も矢を放っていなかった。袴を持ち上げて、走り抜けた。


「悠、今日もまたど真ん中だったね」


「あ、うん。そうだね。たまたまだと思うけど」


「本当、悠は順風満帆って感じの生活だね。彼女とラブラブだし? 毎日リア充かなぁ?」


 弓道部で同級生の坂本 永茉さかもと えまだった。悠の恋愛対象は女性だということもすべて知っている。


「リア充ってほどでもないけど……永茉は?」


「私のことは放っておいて欲しいかな。メンタルズタボロだから、ほら、的にも当たりもしない。今日は帰ろうかなぁ」


「大変そうだね」


「うん、詳しくは聞かないでね」


 永茉は、悠の話は聞くが、プライベートの話は一切話さない人だった。


「うん、わかった。あのさ、永茉に聞いておきたいんだけど、好きでもない男子と一緒に帰ったりできる?」


「え? なんでそんなこと聞く? もしかして、咲夜ちゃんがそうなの?」


「好きかどうかって気になって……。興味ない男子と一緒に帰らないかな?」


「んー、友達かどうかってことじゃなくて?」


「異性と友情って成立するって話?」


「難しい答えだよね。個人差あるし、その時によるかな。そもそも、私は女子だけど、恋愛対象は女子じゃん。わけわからなくなるよね」


「う、うん。まぁ、そうなるよね。1番悠の方がわからないよ、私は」


 弓を片付けて、整列した。部長が号令をかける。黙想して、お辞儀した。


「「「ありがとうございました!!」」」


 部員たちはそれぞれ男女に更衣室に入っていく。

 悠と永茉は先輩方が袴姿から制服に着替え終わるのを外で待っていた。


「悠は、咲夜ちゃん溺愛だね。あまりのめり込みすぎると嫌われるよ? 恋の駆け引きは大切だからね?」


「駆け引き? どうすりゃいいのよ」


「教科書なんてないよ。感覚で覚えるしかない。ずっと好きだけだと疲れちゃうから、倦怠期になるよ」


「ちょっと待って、永茉って高校1年だよね? 恋愛経験豊富なの?」


「ひ・み・つ。ごめんね、先に帰るよ」


「あれ、着替えは?」


「校舎の方のトイレで着替える。今日、予定あってさ。悠、がんばってね」


「あ、ああ」


 手を振って、永茉に別れを告げる。ガラッと扉が開いた。


「悠くん、ごめんね。着替えどうぞ」


 部長の3年齋藤 沙奈さいとうさなが、声をかけた。悠は、まさか名前をくん付けで呼ばれるとは思わず、ドキッとした。


「あ、すいません。ありがとうございます」


「ごめんね、『くん』で呼んじゃって。違和感あるのよ、悠ちゃんではないかなって思うし、かっこいいからさ。女子更衣室に入るのも、ん? って思っちゃう」


「いえ、どんな呼び方でもいいですよ。気にしていないですから。よく言われることです」


「そっか。んじゃね。悠くん。ほら、みんな出てあげないと着替えしにくいよぉ」


 部長の他の部員も早々に更衣室を出て行った。


「そんな、気にしなくても大丈夫ですよ」


「いや、だめよ。みんな悠くんのこと見過ぎちゃうから」


「あー、まぁ、サラシ巻いてるんで別に気にしないんですけどね」


「きゃーかっこいい!」


「うそ。本当?」


 黄色い声が響く。何をしても何を出してもどこでもモテる。

 れっきとした女子だが、かっこいい女子で名が通っている。

 そうであっても彼女の気持ちにはこたえられない歯がゆい思いだった。

 部員みんながいなくなって、1人更衣室の中で制服に着替えた。

 スマホのライン通知が表示されていた。


『悠、ごめんね。今日も用事があって一緒に帰れないんだ』


ここ数日間の咲夜から悠へのメッセージが変わり映えしない文面が送られていた。


悠はそれを見るたびに既読をつけずに読んで落ち込んでいた。

何がいけなかったんだろうと悔いながら、咲夜のGPSアプリと盗聴器を聴いて

確認するが咲夜のいつも通りの行動に何が原因かはさっぱりわからなかった。



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