「悠、ちょっといい?」
学校の昼休みに翼は、悠のクラスに移動して、手招きしていた。
いつもだと、翼と咲夜と一緒にランチタイムだったが、なぜか用事があると教室からいなくなっていた。翼の勘は鋭く、鼻をくんくん嗅いでこれは、琉偉先輩のところだと察知した。この状況はきっと最近の悠の行動にあるんだと問い詰めることにした。
「何、珍しいね。今からクラスの女子たちとランチだよ」
悠の席の周りには数人の女子たちが取り囲んでいた。
「あらあら、ここでもモテモテなのね」
「べ、別に、友達だから」
「さて、どうかしら。それより、話、詳しく聞きたいから今から屋上行けない?」
「えー、卵焼き食べてたところなのに?」
「ママンの卵焼きは屋上でも食べられるでしょう。良いから、行くよ」
「わかったよ、ちょっと待ってて」
悠が席に戻り、荷物をまとめて立ち去ろうとすると取り巻きの女子はかなり残念そうにさわいだ。
「なんで、悠、言っちゃうの。一緒に話したかったのに」
「あとでじっくり話聞くから。ごめんね」
「絶対だよ!」
「本当にモテてるようね……」
翼は呆れ顔で悠に言う。
「おかげさまで振り切りのも大変だよ。まぁ、いいから、いこう」
屋上の扉を開けると、 風が強く頬を打つ。風見鶏がカラカラとまわっていた。
「それで、何の話?」
ベンチに座り、お弁当の蓋を開ける前に悠から話し始める。
「最近、咲夜の様子がおかしいのよ」
ずばり翼は本当のことをいう。
「おかしいって、もしかして琉偉先輩のこと?」
卵焼きを頬張ったあとに悠が言う。
「あ、もう、知っていた?」
「いや、知ってるも何も、近くで見てるし。一緒に帰れない理由も気になったから後ろから追いかけたこともあるし」
「え!? それって、尾行? わざわざ?」
「だって、咲夜のこと気になるし。どうして一緒に帰れなかったのかなって」
「そんな、好きだからって尾行までする必要ある?」
(悠に今までない行動だなぁ)
水筒に入ったお茶をグビグビ飲む。中に入っていた氷がカラカラと鳴った。
「好きじゃないんだよ、翼」
「え?」
「咲夜、愛してるから!!」
飲んでいたお茶を吹き出した。
「ゴホゴホ……まじか!?」
翼は、バックからハンカチとティッシュを取り出して、お茶で濡れたところを拭いた。
「ちょっと、コントじゃないんだから噴き出さないでよ」
「ごめんごめん。だって、私に宣言するから。それ、本人に言ってって思っちゃった」
「あ、ごめん。だって、四六時中、咲夜のこと見ていたいし、知りたいしと思ったらいてもたってもいられなくてさ。ほら、こうやって、GPSもつけてるし、盗聴器も咲夜につけてたんだ」
「え。え?えええええーーー」
翼の持っていたお茶の水筒が全部地面にこぼれた。悠の発言にあまりにもびっくりしたためだ。
「え? まずかったかな?」
「まずいも何も、それ明らかに犯罪だよ?」
「え?! うそ、本当?」
「いや、もうその領域入っちゃってる。だって、探偵とか浮気調査に使うなら
わかるけどさ。なんで、彼氏が彼女に使うのよ。いや、あ、間違った。
彼女が彼女のことを盗聴するのよ。ん? ややこしいな」
「もう、彼氏でいいわ……そっか、そうだったんだ。あまりにも不安でさ、今以上に咲夜のこと知るにはってネット検索していたら、盗聴器とかGPSのアプリが出てきてさ。あーー、そっか、その通りにするのはよくないよね。翼に聞いて良かった。危なく、犯罪者になるところだった」
「ごめん、悠。すでに踏み入れているかも……咲夜が気づかないうちに盗聴器とか回収してなかったことにしなよ?」
「それが、故障したみたいでどこに行ったかわからなくなったんだよね。音が拾えなくなって……GPSアプリは消せばなんとかなるけど」
「まさか、盗聴器にGPSはついてないもんね」
「ついてたよ!でも、電池とか故障したら無理だから」
「どこまでの執着? ちょっと悠、そういうの誰かに相談してからやろう?」
「……うん。だね。今度から気をつける。そのことで何か咲夜言ってなかった?」
「私は何も聞いてないのよ。付き合い悪くてさ。昼休み一緒に過ごせてないんだ」
「もしかして、様子がおかしいのって私が原因だった?」
「うん、そうかもしれないね」
2人は腕を組んで考えた。
「あとで話聞いてみるね。くわしくは聞かないけどさ。様子伺いで」
「うん、わかった。よろしく頼むよ」
ちょうどよくそこで昼休み終了のチャイムがなった。
あまり良くない2人の状況に翼はため息をついた。