放課後の帰り道、いつの間にか咲夜は、毎日琉偉に警護を頼む形になった。
悠がストーカーしてこないかと後ろや左右を確認しながら進む。
咲夜からべったりと離れない。そこまでくっつけとは言ってない。
不意に腕が胸にあたる。
「ちょ、ちょっと!! 今のわざとでしょう!!」
「ち、ちげーよ。ま、間違って当たったに決まってるだろ。ったく、せっかく咲夜のガードマンしてるのに失敬なやつだな」
「いや、あのね、琉偉くん。守ってくれるのは嬉しいんだけど、君がストーカー以上に嫌がることしたら元も子もないんだからね! わかってる?」
「てか、さっきから琉偉って……先輩って呼べや。まったく、どこでお育ちになったんだか」
むつけて、ズボンのポケットに手をつっこんで、咲夜を追い抜いて
行ってしまう。
「ちょ、ちょっと、ガードマンが先に行ってどうするのよ」
「ガードマンは閉店です。ガラガラーーー」
琉偉は目の前にシャッターがあるそぶりをした。
「え?! なんでそうなるのよ!?」
「てかさ、そもそも交際? してたやつなんだろ? 俺は認めないけど、男女じゃない交際は。でもさ、なんで信じてあげないわけ? 確かに尾行するのは、ちょっとって思ったけどさ」
「え、琉偉からそういうこと言われると思わなかった」
「あ、今のなし。やっぱなし。だよな、そいつ、すごいひどいやつだよな。
尾行はするし、盗聴器やGPS勝手に登録するしなぁ。困ったやつだ」
駅の方に歩きながら、言う琉偉。咲夜は仕方なしに後ろをついていく。
はたからみたら、2人で歩いていたら、付き合ってるんじゃないかと疑われるなと今頃になってドキドキしてきた。
不意に、琉偉は振り返って近くにあった電柱に手をついて咲夜を壁ドンならぬ、電柱どんをした。目の前に顔がある。シトラスの制汗剤の匂いが漂った。
男子のくせに良い匂いがする。自分は臭くないか気になってしまった。
「あんま、俺のこと、考えないってよくないと思うけど?!」
「え……それってどういうこと? んっ!!」
顎をおさえながら、琉偉は、口付けた。何も言わせなかった。
目を大きく見開いて、驚く咲夜。幼馴染といえど、恋愛対象として一切
考えてなかった咲夜にとって、驚きでしかないし、気持ちをどのように
しておけばわからなくなった。
「⚪︎△▫︎……」
言葉にならない言葉が出た。
「……」
キスをした後の琉偉の顔はどこか寂しそうだった。何も言わずに立ち去った。咲夜は、下唇を人差し指と親指でつかんだ。リップクリームもリップグロスも何もつけてない素肌の唇は少しだけカサカサしていた。ぷにぷにと触っていると無意識に頬を涙が伝う。
こうなりたかったわけじゃない。好きな人は琉偉じゃない。全然嬉しくなかった。
日が長い空には白い月が浮かんでいた。