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第32話 朝の電話

朝目を覚ますとカーテンから日差しが漏れていた。

昨日の出来事が鮮明に思い出される。


琉偉の行動は何だったのだろう。


どうして、あの場面であんなことが起きなければならないのだろう。


確かにガードマンになってと依頼して引き受けてくれた。でもなんであっさりとやってくれたのか不思議でならなかった。

キスをしたということは……いやまさかとそんなわけがと首を横にふる。


自己肯定感の低い咲夜は、キスをされてもなお、事故だと思っていて、琉偉が自分を好きであるはずがないと信じていなかった。


でも嬉しい気持ちにはならなかった。好きじゃない。

琉偉は恋愛対象じゃないんだと実感した。


誰かを求めている。琉偉じゃない別な誰か。

優しくて、そっと寄り添ってくれる。

今の咲夜にはあの人がいないとダメなんだと改めて感じた。


それは、琉偉と接していないと気づかなかったことなのかもしれない。


咲夜は無意識にスマホを見つめ、ライン画面を開いた。



名前の「悠」の字を見つめ、なんとメッセージを送ろうか。

今の自分はどうしたら、心落ち着くのか。


指は、いつの間にか通話ボタンをタップしていた。


午前6時


朝の準備の真っ最中で忙しいはずだ。ダメ元で電話をする。

コールが3回鳴る。


『もしもし?』


 悠の声が聴こえた。久しぶりだった。


「あ、お。おはよう」


『うん。おはよう』


 不審に思っていた悠への想いが少しずつ消えていた。


「あのね、悠」


『う、うん』


「今日さ、一緒に学校行ける?」


『うん。行けるよ。駅前で待ち合わせでいい?』


「うん」


『んじゃ、そうだなぁ……7時20分くらいかな』


「わかった」


『咲夜、電話ありがとう』


「ううん。それより悠に謝らないといけないなって思ってて……ごめんね」


『え? 何のこと?』


「うーんと上手く言えないんだけど、信じてあげられなかったっていうか。なんていうか」


『私が全面的に悪いのにどうして咲夜が謝るのさ。咲夜、優しすぎるんだけど!!』


 笑いながら、悠が話す。


「え? 私そんな面白いこと言ってないよ?!」


 咲夜はパジャマのまま、ベッドの上で正座して話す。


「咲夜ーーー!! 起きたの?!」


「あ、はーい。お母さんに呼ばれちゃった。んじゃ、あとでね」


『うん。バイバイ』


 プツンと通話終了となった。咲夜はホクホクした気持ちでクローゼットにかけて置いた制服を着た。


 電話を終えた悠はすでに制服に着替えていて、咲夜の家の前にいた。

 昨夜から琉偉の関係が気になって、早朝に準備して、遠くの電柱の影から

 見ていた。


 咲夜家の近所の琉偉は、ちょうど犬の散歩でジョギングしていた。

 悠が駅前方面に歩いていく後ろ姿を目撃した。


(あいつも懲りないなぁ。どんだけ、咲夜のこと好きなんだよ)


 チッとつばを吐いて、チワワと一緒に走り抜けていった。


 モヤのかかっていた咲夜の道路では犬の散歩の人や通勤、通学の人が行き交っていた。


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