「愛嬌は無理でしたね……」
肩を落とした私にアーサー様が話しかけてきた。
「ララちゃんはどうしてウチで働きたいと思ったの?」
「誠実で、真面目な態度のアーサー様に憧れて……」
私はハッとした。そうだ、私がこの冒険者ギルドで働きたいと思ったのは……。
考えていると、ぽつぽつと冒険者の方々がやってきた。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」
「ええと……うーん」
あまり見たことのない冒険者だ。簡単な肩当と胸当てを装備しているだけだから、冒険初心者かもしれない。壁に貼られた討伐依頼を見て、むつかしい顔をしている。
「採取とか探索とか、簡単な依頼をさがしてるんだけど……ありますか?」
明るい茶色の髪を無造作に束ねた青年は、遠慮がちに言った。
「でしたら、こちらはいかがでしょうか?」
私は白色の薬草の採取依頼書と、ゴブリン退治の依頼書を並べた。
「うーん……悪くないけど、他の依頼はありませんか?」
「……残念ですが、今ある簡単な依頼はこれくらいで……申し訳ありません」
「じゃあ、いいや。また今度にします」
「申し訳ありません」
青年の背中を見送った後で、私はアーサー様に尋ねた。
「依頼書はどうやって集めているんですか? 冒険者の方々の希望に合う依頼を紹介できないのは申し訳なくて……」
「うーん。うちのギルドは昔からのお得意さんから依頼をもらうことが多いからなあ……。そうだなあ、人の集まるところには困りごともあるかもしれないね」
「だったら、教会とかお城とかに行けば、依頼を受けられるかもしれないですね」
「僕はあんまり御用聞きにはいかないけどね」
アーサー様の返答を聞き、私は決めた。
「私、明日の午前中はお城と教会に行ってみます! 冒険者ギルドに依頼したいことは無いか聞いてみます!」
「え? でも、女の子が一人で行って、そんな簡単に依頼がもらえるかな?」
アーサー様は眉間にしわを寄せた。
「やってみなくちゃ分からないと思います!」
「じゃあ、僕も一緒に……」
「大丈夫です! アーサー様は冒険者さんたちの対応をお願いします」
「それなら、手紙を書くよ。困りごとがあれば、冒険者ギルド『ビリーブ』へご相談くださいって」
「ありがとうございます!」
少し気持ちが明るくなった。でも、他にも自分にできることがないかなあ?
「そうだ……! 過去の依頼完了記録を見直して、討伐とか採取のコツがないか調べてみよう! 冒険者さんにアドバイスできることが見つかるかもしれない!」
冒険者さんがいない時間は、過去の依頼と完了報告をまとめているファイルを一つずつ見直すことにした。植物ごとに採取しやすい場所をまとめたり、モンスターごとに、初級・中級・上級冒険者別の討伐成功率を数字であらわしてみたり、出来ることは結構ありそう。
愛嬌はないかもしれないけれど、真面目にコツコツやるのは苦にならない。
私は私のやり方で頑張ってみよう。
「お、良い顔してるね? 悩みは解決した?」
アーサー様が私に微笑みかける。気づけば私もにこやかに頷いていた。