冒険者ギルド《赤鷲の翼》は、今日も朝から大賑わい。
受付のカウンターには、今日も彼女の声が響く。
「ちょっとあんた、依頼の申請書が汚れてるよ! はい、新しいの! 書き直し! ……あら、昨日はちゃんと帰って寝たの? 顔が真っ青よ!」
ツヤツヤの金髪に、真紅のリボン。貴族風のドレスをアレンジした制服に、豪奢な香水の香り――
どう見ても“高貴なお嬢様”な見た目の彼女の名は、クラリッサ=フォン=アルトハイム。
かつては大貴族の令嬢。だが家が没落してしまい、自立のためギルド受付嬢として働いている。
もちろんお嬢様らしい教養や品位は完璧なのだが――
なぜか中身は「肝っ玉母ちゃん」そのものだった。
「ご飯食べてないんでしょ!? これ、残り物だけど朝ごはん。食べてから行きなさい!」
「また鎧のまま来て! 床が泥だらけじゃない! 雑巾、そこ!」
ギルドの若手冒険者たちは、もはや彼女を“おかん”と呼んで慕っている。
しかし、彼女にはもう一つの顔がある。
ある日、ギルドの裏口から異形の魔物が侵入した。
「キャーッ!」と叫ぶ新人たちの中、クラリッサは慌てる様子もなく、自分のエプロンを脱ぎ捨てた。
「……仕方ないわね。じゃがいも切るつもりだった包丁だけど、ちょっと暴れさせてもらうわよ?」
そう言って彼女は、鉄製の包丁一本で魔物を真っ二つにした。