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第1話「ギルド受付嬢は元令嬢」

冒険者ギルド《赤鷲の翼》。

王都の北区、雑多な商人通りの一角にある、古くから続く中堅ギルドだ。


朝陽が差し込むギルドのホールでは、冒険者たちが依頼掲示板の前でざわついていた。


「おいおい、また受付嬢があの人かよ……」

「ありがたいけど、なんか色々強引すぎるんだよな」

「いや、俺は好きだぜ。弁当までくれるし」


そんな声が飛び交う中、カツン、カツンと優雅な足音が響く。


「みんな〜!!おっはよ〜…ですわ!」


姿を現したのは、艶やかなブロンドを巻き髪にまとめ、完璧に仕立てられた制服を着こなす受付嬢――クラリッサ=フォン=アルトハイム。

元・大貴族令嬢。現在、庶民派。職業、受付嬢(ただし最強)。


「ほらそこのリューク! 寝癖ひどすぎ! そのまま王都の外に出たらスライムに舐められてしまうわよ!」


「舐められるって何だよ!?」


「そしてフリーダ、昨日のお洗濯物、まだ血のシミが落ちきってないわね。ほら、これ使って! 特製『クラリッサ印・汚れ落としブレンドソープ』よ!」


「助かるけど……いつの間に洗濯チェックしてたの!?」


受付とは何なのか。

貴族とは何だったのか。

その概念すら危うくなるクラリッサの働きぶりは、すでに“ギルドの風物詩”と化していた。


「……クラリッサさん、今朝も絶好調ですね」

ため息まじりに言うのは、受付カウンターの同僚・ユアン。

物腰柔らかな青年で、どちらかといえば常識人枠。


「ええ、庶民の皆さまのご健康と成功のため、今日も全力で勤める!!…ですわ!」


笑顔で言い切るクラリッサ。その表情に一片の迷いもない。


「いや、ですわつけたらいいってもんじゃないですって…。」


そのとき――。


バアァン!


ギルドの扉が勢いよく開かれ、一人の若い冒険者が駆け込んできた。


「た、大変だ! 西の森にレッド・ウルフの群れが出たって! 村人が襲われてるってよ!」


「レッド・ウルフだと……!?」

ギルドの空気が一気に引き締まる。


「Bランクの依頼に昇格するわね……急いで討伐部隊を――」

ユアンが動こうとした、そのとき。


「――時間が惜しいから私が行く!」


クラリッサがそう言って、エプロンを外した。

その下に覗くのは、密かに仕込まれたレザースーツ。


「え!? 受付嬢が!?」


「冗談でしょう!? レッド・ウルフって、下手したらパーティ壊滅級だぞ!」


「大丈夫よ。包丁は持ってきたから♪」


にこりと微笑むクラリッサの手には、彼女の愛用――元は高級料理用だったが、今や魔獣をも断つ刃――**『アルトハイム家製・銀の三徳包丁』**が握られていた。


冒険者たちは、ただ唖然と見つめるしかなかった。

凛として、どこか抜けていて、でも誰より頼れる――。


「さあて、ちょいとお出かけしてくるわね♪ 夕方には戻るから、晩ごはんの準備はお任せを!」


肝っ玉母ちゃん系残念お嬢様受付嬢・クラリッサ。

ギルドの“もうひとつの顔”の物語が、いま幕を開ける――!



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