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第2話「受付嬢、狼をしばきに行く」

ギルドの建物を飛び出したクラリッサは、西の森へ向かって一直線に走っていた。

腰に提げた包丁がカランと鳴るたびに、冒険者の視線を集めるが、彼女は気にしない。


「ったく、レッド・ウルフなんて物騒なもんが出たら、畑仕事もできやしないわよ。こっちはこっちで依頼処理で手一杯だってのにさぁ」


口ではぼやきつつも、足取りは軽い。

クラリッサはただの受付嬢じゃない。

かつて王都でも名の知れた大貴族の令嬢であり――

今は、庶民の暮らしを守る“お節介すぎる受付嬢”である。


森の入り口に着くと、うっすらと焦げ臭い匂いが鼻をかすめた。


「……こりゃ、狼どもが火を使う獣人でも引き連れてるのか?」


低くつぶやき、足元に転がる枝を拾って匂いを嗅ぐ。


「違うな。これは……狼が村の囲いに火をつけたってとこか。賢いじゃないの」


と、草むらから「グルル……」という唸り声が聞こえた。


「ほら来た。さっさと片付けて、ギルドに戻らないと、夕方の受付に間に合わないからね」


クラリッサは腰の包丁をスッと抜いた。

刃渡り30センチ、銀と魔鉱石を打ち込んだ、料理にも戦闘にも使える万能刃。


「来な。まとめて相手してやるよ。あたしはね――子ども泣かす奴には、遠慮しねえんだ」


次の瞬間、飛び出してきたレッド・ウルフの一体を、軽やかな足さばきでかわしながら、逆に首元へ包丁を一閃。


「よっ、と。はい一匹片付けぇ!」


その動きは、まるで熟練の料理人が魚を三枚におろすように滑らかだった。


「おうおう、次から次へと……。今日の夕飯は狼鍋か?」


残り五体。


けれどクラリッサはまるで怯まない。むしろ口元には余裕の笑みが浮かんでいる。


「さーて、ちゃっちゃと狩って、帰って仕込みすっかね」


――この日、村に現れたレッド・ウルフの群れは、わずか15分で鎮圧された。


その後。ギルドに戻ったクラリッサは、何食わぬ顔で受付カウンターに立ち、冒険者たちに温かいスープを配っていた。


「はい、今日は狼のダシで作った特製ポトフ。スタミナつくから飲んどきな!」


「え、まさかあの狼……!」


「そうだよ。食べられるとこはありがたく使う。命は無駄にしないのが、クラリッサ流ってね!」


スープを受け取った冒険者たちは、その美味しさに感動しつつも、改めて思った。


――やっぱりこの受付嬢、ただ者じゃない。


クラリッサは今日もギルドのカウンターに立つ。

お節介で、騒がしくて、でも誰よりも頼れるその姿は、いつの間にか多くの冒険者たちの心に根を張っていた。


そして彼女の伝説は、またひとつ――増えた。

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