ギルドの朝は早い。
冒険者たちが寝ぼけ眼で集まり始める頃、クラリッサはすでに帳簿と格闘していた。
「このバカ、新人のくせに“ドラゴンの爪”とか受けやがって……あたしが止めなきゃ死んでたな。はい、レポート赤入れっと」
そこへ、ドアがガチャッと開く音。
「失礼します! 本日からギルドに配属された新人パーティー、スモールファングです!」
真新しい装備に身を包んだ三人組が、緊張で顔をこわばらせながら入ってきた。
「……へぇ、やけに礼儀正しいじゃないの。気合は十分みたいだけど、その装備じゃスライムでも怪我するわよ?」
「えっ!? い、いえ、ちゃんと村の鍛冶屋で――」
「それが問題なんだよ! あそこの鍛冶屋、安いけど耐久スッカスカなの! ほら、あたしの包丁貸してやるから触ってみな!」
クラリッサは腰から包丁を取り出し、机にトンと置いた。
「こ、これ……ずしっと重い……!」
「魔鉱石入りの実戦用さ。切れ味も文句なし。……ま、それより大事なのは自分の身の丈を知ること。背伸びして死んだら意味ないでしょ?」
新人たちは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「まずはスライム掃除からだね。それが終わったら、あたしんとこ来な。戦いのコツ、飯の炊き方、テントの張り方、ぜーんぶ教えてやるよ!」
「は、はい! クラリッサさん、よろしくお願いします!」
「クラリッサ“さん”じゃない。クラリッサ“姐さん”って呼びな!」
――こうして、新たな弟子(?)がクラリッサの元に加わった。
受付嬢としてだけでなく、ギルドの母として。
彼女の活躍は、今日もギルドに笑いとスープの香りをもたらしていく。