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第10話「ギルドは、今日も忙しい」

クラリッサが帰ってきたその朝、ギルドは平常運転――つまり、大混乱だった。


「クラリッサさーん!! あのっ、依頼票の書き方、またわかんなくなっちゃって!!」


「お前さっきも来てただろ!?…ですわよね!? 今度は何!? “伝説の鍋の蓋を探してほしい”? 意味がわかんないんだけど!…ですわ!」


「クラリッサさん! 緊急事態です! ポーション全部飲み干したヤツがいます!」


「誰だよそれ!? ……っていうか何で飲むんだよ常備薬を!」


「も、もしかして……あたし、ですかね……?」


「お前だったのかよ!!…ですわ!!」


クラリッサ=フォン=アルトハイム。

かつて「災厄の家」と呼ばれた名家の令嬢。

しかし、今や彼女の肩書は――“ギルドの全力受付嬢”。


「ふぅ……久々に戻ってきたけど、やっぱここが落ち着くわー……いや、落ち着くわけないけどね!」


それでも、どんなトラブルにも動じないその姿に、ギルドの誰もが信頼を寄せていた。


「クラリッサさん、クラリッサさん!! 今朝ギルド前でチンピラが騒いでて……」


「セフィナ、ちょっとお願い」


「え!? 私ですか!?」


「大丈夫、前回の“ゴブリン襲来事件”を思い出して。君、3体まとめてぶん投げてたよね?」


「え、あれ……見られてたんですか……?」


「バッチリ」


セフィナが顔を赤らめながら走り出すと、クラリッサはすかさずカウンターに戻った。


「さーて、次の依頼処理っと。……って、今度は“呪われた鍋の蓋を封印してほしい”? どんだけ鍋関連来るのこの街」


そのとき、ふらりと現れたのは武闘派冒険者のバルド。


「クラリッサ、帰ってたのか」


「おー、バルド。珍しく生きてるじゃん」


「おい、失礼だな。……で、ちょっと頼みたいことが」


「はいはい、鍋関係は受付終了でーす」


「ちげえよ!!」


ふふっと笑うクラリッサ。

彼女にとって、ここが“帰る場所”だった。


その夜、ギルドの裏手で、クラリッサはひとり空を見上げていた。


「お母さん……あたし、もう“アルトハイムの娘”じゃなくていいよね。

“クラリッサ=受付嬢”として、ちゃんと生きていけそうだよ」


どこからか聞こえてくる怒声。


「クラリッサさーーーん!! キッチンの鍋、爆発しましたーーー!!」


「また鍋!? いや待って、今度は何したの!? ていうか鍋が爆発ってどういうこと!?」


彼女の戦場は、魔導研究所でも、戦場でもない。

そう――今日も変わらず、受付カウンターの向こう側だ。


「ギルドの受付嬢」クラリッサ=フォン=アルトハイム、全力で業務中!




――完



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