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祈りの聖女シャウラ~追放された私が築いた隣国の奇跡と伝説~
祈りの聖女シャウラ~追放された私が築いた隣国の奇跡と伝説~
ゆる
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月16日
公開日
4.9万字
完結済
国を守る聖女として祈りを捧げ続けていたシャウラ。しかし、自分の力に無自覚な彼女は「何の役にも立たない」と追放されてしまう。居場所を失い隣国で花屋を始めたシャウラだが、そこで静かに祈りを続けているうちに、思いもよらない奇跡が次々と起こり始める――豊作、病の癒え、国全体の繁栄。 一方、シャウラを追放した国は未曾有の災厄に見舞われ、彼女の存在の大きさを思い知る。追放された聖女が知らず知らずのうちに築いた「奇跡の隣国」。その裏で語られる、優しき祈り手の物語。 誰かを救うことに特別な力は必要ない。ただ、心から祈ることが奇跡を呼ぶ。そんな優しさ溢れるストーリーです。

第1話 シャウラの日常




朝日が柔らかく窓辺を照らし、聖女シャウラの一日が始まる。鳥たちのさえずりに目を覚ました彼女は、まだ眠気の残る顔でふわりと欠伸をしながら、ゆっくりとベッドから起き上がった。


「ふぁ……おはようございます、皆さんも元気でいらっしゃいますように……」


何気なく呟いたその言葉すらも、国全体を覆う加護の力となっていることを彼女自身は知らない。彼女は聖女として祈りを捧げる役割を担い、国の繁栄を支えてきた。しかし、そんな自覚は全くない。自分はただの日常を送る、少しのんびりした普通の人だと信じて疑っていなかった。


朝の祈りをするために薄衣を羽織り、静かに両手を合わせる。白い息が漂う静寂の中、彼女の祈りが目に見えない光となって世界を包み込んでいく。その加護は農作物を豊かに育て、病を癒し、人々に安らぎをもたらしていた。けれどもシャウラは、何も感じていない。ただ目を閉じて、朝の静けさを楽しんでいるだけだった。


「今日もいいお天気になりそうですね。きっと皆さんも元気いっぱい過ごせますように!」


祈りを終えたシャウラは満足そうに微笑み、そのまま台所に向かう。鍋に火をかけ、前日のパンを温めながら鼻歌を口ずさむ。


「最近、なんか、いつもすぐ眠くなっちゃうんですよねぇ……」


ぽつりと独り言を漏らしながら、目を擦る。焼きすぎたパンの端を見つめ、「まぁ、これも味わいですね」と気にせず口に運んだ。



---


午前中の祈りを終えたシャウラは、市場へ向かう道すがら、街の人々と何気ない会話を交わしていた。彼女が歩くだけで、周囲の人々はどこか活気づく。病に苦しんでいた人が回復したり、商人が「今日は良い取引ができそうだ」と微笑んだりする。もちろん、シャウラはそんな現象に全く気づいていない。


「シャウラ様、いつもありがとうございます!」

通りすがりの女性が、深々と頭を下げて礼を言う。


「えっ? あ、どういたしまして……でも、私、特別なことは何もしていませんよ? 皆さんが素晴らしいから、きっと良いことが起きるんです!」


シャウラは困ったように微笑み、少し恥ずかしそうに手を振った。その天然な態度に、相手はかえって癒されたような表情を浮かべる。


市場で新鮮な野菜を買い、小鳥たちと戯れながら昼時の祈りの時間を迎えた。祈りの場である城の大広間は厳粛な空気に包まれ、廷臣たちが見守る中、シャウラはゆっくりと席に着いた。



---


「では、始めますね……」


シャウラが両手を合わせ、目を閉じると、大広間の空気が一変した。彼女の祈りは穏やかで優しいが、その背後には莫大な力が秘められている。微かに光が漂い始め、無数の恩恵が国中に広がっていく。


しかし、シャウラ本人は何も感じていなかった。感じていたのは、ぽかぽかと温かい陽気と、ほんのり漂う昼食の香りだった。


「……ふぁ……」


彼女の頭がふらりと揺れる。目を閉じたまま、シャウラは静かにうとうとし始めた。廷臣たちの緊張した表情が、微妙に変わる。


「……コクリ。」


突然、彼女の頭が前に垂れ、小さな音を立てた。慌てた侍女の一人が「シャウラ様!」と声をかける。シャウラは目をこすりながら、ゆっくりと顔を上げた。


「あら……ごめんなさい。なんだかぽかぽかしていて、つい……」


周囲の廷臣たちは呆れるやら驚くやらで言葉を失う。国を護る重要な祈りの場で、うたた寝する聖女など、聞いたことがなかった。



---


「最近、なんか、いつもすぐ眠くなっちゃうんですよねぇ……」


シャウラは、まるで当たり前のことのように呟いた。その言葉に、廷臣たちは複雑な表情を浮かべる。


「シャウラ様はお疲れなのです。やはり一度、休養を取られるべきかと……」

侍女の一人が優しく提案するが、シャウラは首を振った。


「いいえ、大丈夫ですよ。お昼ご飯を食べたら、きっと元気になりますから!」


そう言って微笑む彼女に、侍女も廷臣たちも、それ以上何も言えなかった。


彼女の無自覚な加護が国全体を護っていることを知る者もいれば、彼女を「無能」と感じる者もいる。シャウラの祈りの重要性を知る一部の廷臣たちは、不安を募らせる一方で、彼女を排除しようと考える者たちも陰で動き始めていた。


それでもシャウラは、今日も変わらずおっとりと日常を送っていた。





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