隣国での穏やかな日々が続く中、その平和を突如として破る出来事が起きた。ある朝、宿場町の市場が賑わう中で、遠くの山から激しい地響きが響き渡った。
「なんだ!?地震か?」
商人たちが商品を押さえ、周囲を見回す。地面が微かに揺れ続ける中、町の人々は不安げな表情を浮かべた。
「いや……あれはただの地震じゃない!」
一人の男が叫んだ。遠くの山肌から煙が立ち上っているのが見えた。さらに、煙の合間から黒い影が次々と現れ、空へ飛び立つ。巨大な翼を持つ魔物たち――その数は数十にも及び、隣国の山間部を目指して飛び始めた。
「魔物の群れだ!」
その声に、町全体が一瞬で混乱に陥った。
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町に迫る危機
魔物の群れが最初に襲ったのは、宿場町から北にある小さな農村だった。村人たちは突然の襲撃に逃げ惑い、農作物や家畜が次々と荒らされていく。
「助けてくれ!」
「誰か……誰か止めてくれ!」
村の鐘が鳴らされ、周囲の町に危険が伝えられると、宿場町にもその報せが届いた。町の人々は、魔物の脅威が自分たちにも及ぶのではないかと怯え、店を閉じて避難の準備を始めた。
そんな中、一人の農夫がシャウラの花屋に駆け込んできた。
「シャウラ様、お願いです!どうか助けてください!村が魔物に襲われていて……!」
シャウラは水やりをしていた手を止め、真剣な表情で農夫に向き合った。
「まあ、大変ですね……皆さん、怪我はないですか?」
「怪我人も出ています!ですが、もう手に負えません。この町も危険に晒されるかもしれません……!」
農夫の必死な声に、シャウラはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「わかりました。私にできることがあればお祈りしますね。」
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祈りの奇跡
シャウラは花屋の庭に座り、農夫と町の人々が見守る中で静かに手を合わせた。彼女の祈りはいつもと変わらず穏やかで、心に響く優しい声が響いた。
「どうか、村の人々が無事でありますように。魔物たちが静まり、皆さんが安心して暮らせますように……。」
祈りが終わると、庭を包む空気が一変した。風が吹き抜け、花々が一斉に揺れたかと思うと、その場にいた人々の心に安らぎが広がっていくようだった。
農夫は不安そうな顔で尋ねた。
「これで……本当に村が救われるのでしょうか?」
シャウラは微笑みながら答えた。
「きっと大丈夫ですよ。信じる心が大切ですから~。」
その言葉に半信半疑の農夫だったが、祈りにすがる思いで村へ戻っていった。
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魔物の撤退
農村では、魔物たちが村中を荒らし回っていたが、突如として状況が変わり始めた。巨大な黒い翼を持つ魔物が空で急に方向を変え、どこか遠くへ飛び去り始めたのだ。
「どうしたんだ?」
「魔物たちが去っていくぞ……!」
村人たちは戸惑いながらも、魔物たちが一匹残らず山の奥へ戻っていくのを見守った。
さらに、襲撃によって荒らされていた作物や家畜が、まるで元通りになっていくかのように復活していた。枯れかけていた木々が青々と茂り、村全体が再び命を取り戻したようだった。
「これが……奇跡なのか?」
村人たちは驚きと感動の表情で互いに顔を見合わせた。そして、農夫が口を開いた。
「シャウラ様が祈ってくださったんだ……。あの方が救ってくれたんだ!」
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町での反響
農夫が村の出来事を宿場町に報告すると、町中で話題が広まった。
「シャウラ様の祈りが、魔物を退けて村を救ったらしい!」
「やっぱり、あの方はただの花屋じゃない。神様が遣わした存在だ!」
人々はシャウラのもとに集まり、感謝の言葉を述べ始めた。シャウラは困ったように笑いながら応えていた。
「そんな大げさなことじゃないですよ~。私はただ、お祈りをしただけですから。」
それでも、人々の間では彼女が「花屋の聖女」としての存在を確信する声が強まっていった。
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御者の視点
その光景をそばで見守っていた御者は、改めてシャウラの力の大きさを実感していた。
「彼女の祈りが、これほどまでに強力な影響を及ぼすとは……。」
御者は自分の国が、彼女を追放したことの重大さを痛感していた。
しかし、それ以上に不安を覚えていたのは、隣国がシャウラの力に注目し始めている兆候だった。
「彼女を巡って争いが起きなければいいが……。」
御者の胸に、微かな焦りが芽生え始めた。
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