シャウラが祈りを捧げた翌日、奇跡が起きた。宿場町に訪れた農夫が伝えた通り、魔物は一匹残らず村を去り、村は平和を取り戻した。荒らされた作物も家畜も無傷の状態に戻り、村人たちはその光景に目を疑った。
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奇跡の実感
農夫が帰還した時、村の雰囲気は一変していた。わずか一日で村の作物が青々と茂り、家畜たちが元気を取り戻しただけでなく、村人たちの顔にも笑顔が戻っていた。
「これが……シャウラ様の祈りの力なのか?」
農夫の家族は感謝の涙を流し、村中でその噂が瞬く間に広がった。
「昨晩の不安が嘘のようだわ……。」
「シャウラ様が祈ってくださったおかげね!」
村の人々は祈りを捧げてくれたシャウラに、何かお礼をしたいと考え始めた。そして、一行が宿場町へ向けて感謝の品を持参することが決まった。
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村人たちの訪問
翌朝、シャウラの花屋の庭には、村人たちが大勢集まっていた。野菜や果物、花束や手作りの工芸品など、村の人々が持ち寄った感謝の品々が次々とシャウラのもとに届けられる。
「シャウラ様、私たちの村を救ってくださり、本当にありがとうございました!」
一人の女性が深々と頭を下げると、他の村人たちも一斉に感謝の声を上げた。
「いえいえ、そんな……大したことはしていませんよ~。」
シャウラは慌てた様子で手を振った。
「私はただ、皆さんが無事で幸せでいられるように祈っただけですから。」
「その祈りが私たちを救ったのです!どうかこのささやかなお礼をお受け取りください。」
村人たちは熱心に品物を差し出した。
シャウラはその様子に少し戸惑いながらも、優しく微笑んで答えた。
「ありがとうございます。皆さんの気持ちがとても嬉しいです。でも、どうかご無理をなさらないでくださいね。」
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町全体への広がり
この出来事は、宿場町全体で大きな話題となった。
「シャウラ様が村を救ったって本当なのか?」
「魔物を退けただけでなく、作物や家畜まで元通りになったって聞いたぞ。」
市場や酒場で交わされる会話は、シャウラの奇跡的な祈りの話題一色だった。
「やっぱり、あの方はただの花屋じゃない。私たちの国にとって特別な存在だ!」
「“花屋の聖女”という名前も、本当にその通りだわ。」
次第に町の人々もシャウラを「聖女」と呼ぶようになり、彼女の花屋は信仰の対象として扱われ始めた。
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訪問者の増加
シャウラの評判が広がるにつれ、花屋を訪れる人々の数は増えていった。病気の治癒を願う者、不作の農地を救いたい者、家族の無事を祈りたい者――その理由は様々だった。
ある日、若い母親が小さな子供を連れてやってきた。
「シャウラ様、この子が高熱を出していて……どんな薬を使っても良くならないんです。どうか、この子のためにお祈りを……」
シャウラは優しく微笑み、子供の頭にそっと手を置いた。
「大丈夫ですよ。お母さんと一緒に、元気になりますようにってお祈りしましょうね。」
彼女が短く祈りを捧げると、子供はその場で穏やかな表情になり、次第に顔色が良くなっていった。
「本当に……ありがとうございます!」
母親は涙ながらに感謝を述べ、その場にひざまずいた。
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信仰の対象として
こうした出来事が続く中で、シャウラはただの花屋ではなく、人々にとって特別な存在として扱われるようになった。庭で花を育てながら穏やかに祈りを捧げる彼女の姿は、まるで神聖な光景のように見えた。
「シャウラ様に祈っていただければ、何でも良くなる!」
「隣国はきっと、彼女のおかげで繁栄しているんだわ。」
人々はそう確信し、彼女を心から敬い始めた。
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シャウラの無自覚な力
しかし、シャウラ自身は自分が信仰の対象となりつつあることに気づいていなかった。ただ、毎日花を育て、訪れる人々と笑顔で会話し、祈りを捧げることが彼女の日常だった。
「皆さんが元気で幸せでいられるなら、それが一番です~。」
彼女のその言葉は、どれだけの人々を救っているかを理解していないがゆえに純粋で、周囲の人々の心をさらに掴んでいった。
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御者の葛藤
一方で、シャウラのそばでその様子を見守っていた御者は複雑な感情を抱えていた。彼女の力が隣国の人々をどれだけ救っているのかを目の当たりにしつつも、その力が追放国でも必要とされていることを知っていたからだ。
「彼女がこの国を繁栄させるのは間違いない。しかし、追放国はどうなる……?」
御者は自問自答を繰り返した。