シャウラの評判が隣国中に広まり始めると、彼女の存在に目をつけたのは町の人々だけではなかった。隣国の貴族たちもまた、シャウラの力に注目し、彼女との関係を築こうと動き始めた。
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貴族たちの思惑
シャウラが村人や町の人々を助け、祈りを通じて災害を収束させているという噂は、隣国の上流階級にも瞬く間に広がっていた。彼女の祈りが魔物を退け、作物を豊かにし、病気を癒やす――これらの奇跡を耳にした貴族たちは、彼女の力を利用することで自分たちの領地や立場を有利にする方法を模索し始めた。
ある貴族は、自らの領地で起きている干ばつの問題を解決してもらおうと考え、別の貴族は、シャウラを自らの宮廷に迎え入れることで、その威光を自身の権力の強化に使おうと画策していた。
「彼女を正式に隣国の守護者とするべきではないか?」
「いや、それでは彼女を巡る競争が激化するだけだ。我々の家に迎え入れる方が現実的だ。」
貴族たちは密かにシャウラとの接触を計画し、それぞれの思惑で彼女のもとを訪れ始めた。
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最初の訪問者
ある日の午後、シャウラが花屋で庭の手入れをしていると、一台の立派な馬車が店の前で止まった。金色に装飾された車体と従者たちのきらびやかな衣装は、明らかに普通の訪問者ではないことを示していた。
「まあ、立派なお客様がいらっしゃいましたね。」
シャウラは微笑みながら手を止め、訪問者に向き直った。
馬車から降りてきたのは、隣国の有力な貴族の一人であるアルドラン公爵だった。彼は上品な身のこなしでシャウラに近づき、軽く頭を下げた。
「初めまして、シャウラ様。“花屋の聖女”と呼ばれるあなたのお噂は、私の耳にも届いております。ぜひ、一度お目にかかりたく参りました。」
「まあ、そんな風に呼ばれているんですね。」
シャウラは少し照れたように笑った。
「私はただの花屋ですけど、どうぞお花を見ていってください。」
「いえ、本日はこちらの花を拝見するためだけに来たのではありません。実は、私の領地で深刻な干ばつが起きておりまして……どうか、あなたのお力をお貸しいただけませんでしょうか?」
その言葉に、シャウラは少し考え込んだ後、穏やかに微笑んだ。
「それは大変ですね……。では、お祈りしてみますね。」
彼女は庭の中央に座り、いつものように手を合わせて静かに祈り始めた。その光景を見守るアルドラン公爵と従者たちは、その神々しい姿に息を呑んだ。
「どうか、公爵様の領地が豊かになりますように。皆さんが安心して暮らせますように……。」
祈りが終わると、シャウラは穏やかに微笑んで立ち上がった。
「これで少しでもお役に立てれば嬉しいです~。」
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次々と訪れる貴族たち
アルドラン公爵が訪れた翌日から、シャウラの花屋には隣国の他の貴族たちが次々と訪れるようになった。彼らは各々の問題を解決してほしいと願い出たり、彼女を宮廷に招待しようと試みたりした。
「私の領地では収穫が減少しておりまして……どうか、シャウラ様の祈りで助けていただけないでしょうか。」
「ぜひ、私の宮廷にお越しいただき、私たちの守護者となっていただきたいのです。」
彼女はその度に、特別なことをするでもなく、ただ祈りを捧げるだけだった。しかし、その祈りが持つ力は、貴族たちにとって計り知れない価値を持っていた。
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シャウラの無自覚さ
そんな中でも、シャウラは自分が貴族たちにとって特別な存在になっていることをまるで理解していなかった。
「皆さんが困っているなら、できることをするだけです~。」
彼女はそう言って、訪れる貴族たちにも、農夫や町の人々と同じように接していた。
しかし、その無垢で純粋な態度が、逆に彼女をさらに魅力的な存在にしていた。貴族たちは彼女の素朴さと優しさに感銘を受け、ますます彼女を自分たちの手元に置きたいと考えるようになった。
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御者の視点
一方で、シャウラのそばで日々を共にしていた御者は、その状況を複雑な思いで見守っていた。
「貴族たちはシャウラ様の力を利用しようとしている……。彼女がそんなことを望んでいるとは思えないが、この状況では断ることもできないだろう。」
御者はシャウラの無自覚な力と、それを利用しようとする周囲の人々の思惑に不安を抱いていた。しかし、それ以上に気にかかるのは、追放された国の動きだった。
「隣国での彼女の評判が高まれば高まるほど、追放国が彼女を取り戻そうとする動きも激しくなるだろう……。」
御者の心には、シャウラを守るべきなのか、それとも彼女を自分の国へ戻すべきなのかという葛藤が渦巻いていた。
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