隣国に現れた「花屋の聖女」としてのシャウラの存在は、次第に国全体の命運を変え始めていた。彼女の祈りを通じて、人々の生活に奇跡がもたらされるたびに、隣国の経済や社会は繁栄の方向へと向かっていった。
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村と町の変化
シャウラが花屋で祈りを捧げた結果、農村地域では目に見える変化が続々と現れていた。
「今年の作物は驚くほど豊作だ!」
「去年は干ばつで苦しんだけれど、今ではこんなに水が潤っているなんて……。」
農村の人々は次々と驚きの声を上げた。乾ききっていた土壌に再び栄養が行き渡り、農作物は通常の倍以上の大きさと量で収穫されるようになった。村の市場も活気づき、農家の収入が大幅に増えたことで、町全体が明るくなった。
町の商人たちはこうした変化を喜び、隣国の至る所でシャウラの噂を広めていた。
「花屋のシャウラ様が祈ってくださったおかげだ。彼女がいる限り、この国は安泰だよ!」
特に宿場町の商業地区では、旅行者たちが増え始めた。シャウラの噂を聞きつけ、彼女の花屋を訪れようとする人々が国内外からやってきたのだ。
「これが“花屋の聖女”の力か……。この町は以前と比べ物にならないほど賑やかになったな。」
宿場町の宿主も、増える宿泊客に嬉しい悲鳴を上げていた。
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王宮の報告
このような変化が国内の各地で見られるようになると、隣国の王宮にもシャウラの影響力に関する報告が届き始めた。
「陛下、国内の作物の収穫量が昨年比で30%増加しております。特に、干ばつが続いていた地域での改善が顕著です。」
財務大臣が報告書を手に述べる。
「さらに、国内の疫病も沈静化し、医療施設の負担が大幅に減少しております。これらの現象は、すべて“花屋の聖女”と呼ばれるシャウラ様の祈りによるものだと、地方の役人たちが報告しております。」
これに対して、王は深く頷いた。
「シャウラという人物が、我が国にとってどれほど重要な存在であるかは明白だ。しかし、彼女をこのまま放置しておくべきではないのではないか?」
側近たちは顔を見合わせ、それぞれの意見を述べ始めた。
「確かに、シャウラ様を正式に王宮へ迎え入れるべきだと考えます。彼女がこの国の繁栄を支える存在である以上、国として彼女を保護する必要があります。」
「しかし、彼女が今の生活に満足しているならば、無理に宮廷に招くべきではありません。それが原因で彼女の力が発揮されなくなる可能性もあります。」
王宮内でも、シャウラをどう扱うべきかについての議論が巻き起こり始めた。
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シャウラの無自覚な影響
一方で、シャウラ自身は自分の祈りが国全体にどれほどの影響を及ぼしているのかを全く理解していなかった。彼女の日常は、相変わらず花屋で花を育て、訪れる人々の話を聞き、必要に応じて祈りを捧げることだった。
「皆さんが幸せで元気なら、それが一番ですよね~。」
シャウラは町の人々に微笑みながら、訪れるたびに感謝の言葉を述べられても、ただ控えめに頭を下げるだけだった。
その純粋さが、さらに人々の心を掴んでいった。
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隣国の繁栄と外交の影響
隣国の繁栄が目に見えて明らかになると、近隣諸国もその変化に注目し始めた。隣国が短期間でこれほどまでに豊かになった背景には、「花屋の聖女」として知られるシャウラの存在が大きく関わっているという噂が、外交官たちの間で話題となっていた。
「隣国の発展の裏には、どうやら一人の女性が関わっているらしい。」
「“花屋の聖女”という人物は、どのような力を持っているのだろう?」
特に、追放された国の外交官たちは隣国の繁栄を目の当たりにし、焦りを隠せなかった。自国の混乱が収まらない中で、隣国が急速に発展している事実は、追放国にとって大きな脅威だった。
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御者の胸中
そんな中、シャウラのそばに仕える御者は、彼女の力が隣国の繁栄を支えている現実を見つめながら、複雑な思いを抱えていた。
「彼女がいる限り、この国はさらに豊かになるだろう。しかし、追放された国がこの状況を黙って見ているわけがない……。」
御者はシャウラを守るべきか、それとも追放国の使者に協力すべきかで悩み始めていた。彼女の無邪気な笑顔を見るたびに、どちらの決断も彼女を傷つけるのではないかという恐れが胸を締め付けた。