隣国で「花屋の聖女」としてその名を広め、伝説として語られるようになったシャウラだったが、彼女自身はそれを特に意識することなく、日々を穏やかに過ごしていた。しかし、そんな日常の中で、彼女の心には徐々に「次の地での生活」を夢見る思いが芽生え始めていた。
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静かな決意
ある日の夕暮れ、シャウラは庭のベンチに腰掛け、色とりどりの花々を眺めていた。夕日に照らされる花たちは穏やかに揺れ、心地よい風が彼女の髪をなびかせた。
「この庭も、もう随分と賑やかになりましたね~。」
シャウラは花に語りかけるように微笑む。隣国に来てから育てた花たちは、彼女の愛情を受けて見事に咲き誇り、庭は小さな楽園のようになっていた。
ふと、彼女は手のひらに触れる夕日の温かさを感じながら、空を見上げた。空には一筋の流れ星が煌めき、彼女の胸にある感情を呼び覚ました。
「いつか……この国だけじゃなく、他の場所でも花を咲かせられるといいな~。」
その呟きは、彼女の中で芽生え始めた新たな希望の種だった。
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村人たちとの別れ話
翌日、シャウラは花屋を訪れる村人たちと話をしていた。彼女の祈りと花屋が村の人々に与える安らぎは大きなもので、村人たちは皆、彼女がいることを当然のように感じていた。
「シャウラ様、この花をいただきたいのですが……」
「もちろんです~。この花は元気をくれる力がありますよ。大切に育ててくださいね~。」
穏やかに花を手渡す彼女の様子を見て、村人たちは微笑む。だがその日の会話の中で、彼女がふと漏らした言葉に村人たちは驚きを隠せなかった。
「実はですね~、私、いつかこの花屋を離れて、他の場所でも花を育てたいな~って思ってるんです。」
「えっ、シャウラ様がこの村を離れるのですか?」
村人たちは一瞬動揺し、口々に心配の声を上げた。
「皆さん、そんなに心配しないでくださいね~。私はまだここにいますよ。でも、いつか新しい土地で新しい花を育ててみたいな~って。それだけなんです。」
シャウラの穏やかな声に、村人たちは少しずつ落ち着きを取り戻したが、彼女がいなくなることを想像するだけで胸が締め付けられるような思いだった。
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準備の日々
シャウラは次の旅立ちを考えながらも、日常の仕事を丁寧にこなしていた。庭の手入れをし、新しい花の種を蒔き、訪れる人々に変わらぬ笑顔で接していた。
そんな彼女の姿を見て、村人たちは次第に彼女の決意を尊重するようになっていった。
「シャウラ様が新しい土地で花を育てるのなら、きっとその場所も繁栄するでしょう。」
「私たちはいつでもここでシャウラ様のことを思っています。どうかお元気で……。」
村人たちは彼女が新たな地で幸せに暮らせるようにと、彼女の旅立ちを支える準備を始めた。村人たちから贈られるお守りや花の種は、彼女に対する感謝と祈りの象徴だった。
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隣国王からの言葉
ある日、シャウラの花屋に隣国の王から使者が訪れた。使者はシャウラに王からの言葉を伝えた。
「シャウラ様、陛下はあなたが次の地で新たな生活を始めることを聞き、大変感動されております。そして、どこに行かれようと、あなたが隣国にとって特別な存在であることは変わらないと仰っています。」
シャウラはその言葉に驚きながらも微笑んだ。
「まあ、そんな風に思っていただけるなんて……ありがたいですね~。」
使者はさらに続けた。
「陛下から、あなたの旅が安全であるようにとの願いを込めて、この品をお持ちしました。」
それは美しい花の紋章が刻まれたペンダントだった。シャウラはそれを受け取り、感謝の言葉を述べた。
「こんな素敵なものをありがとうございます~。これを持っていれば、どこに行っても安心ですね。」
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旅立ちの日
ついに旅立ちの日がやってきた。シャウラは少しだけ寂しさを感じながらも、新たな地での生活への期待で胸を膨らませていた。
「皆さん、本当にありがとうございました~。私は新しい場所で頑張りますけど、ここで過ごした日々は一生忘れません~。」
村人たちは涙を浮かべながら、彼女を見送った。
「シャウラ様、どうかお元気で!」
「またいつか、私たちのところに戻ってきてください!」
馬車に乗り込むシャウラは、最後にもう一度庭を振り返った。そして、静かに手を合わせて祈った。
「この場所が、これからも幸せで満たされますように……。」
その祈りが届いたかのように、庭の花々が風に揺れ、光を放つように輝いた。
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次の地への旅路
こうしてシャウラは隣国を離れ、新たな地を目指して旅立った。その背中には、村人たちの思いと感謝、そして隣国全体から寄せられる信仰が刻まれていた。
次なる土地で、彼女の穏やかな祈りがどのような奇跡を生むのか――それはまだ誰にも分からない未来だった。