午前7時32分00秒ちょうど。陸斗は目覚ましが鳴る0.3秒前に目を開けた。
「よし、誤差ゼロ」
その言葉と同時に、目覚ましがチリリリと鳴った。彼は素早く止め、次の動作に移る。着替え、朝食、歯磨き――どれも秒単位で完璧なリズム。だがそれは、ただの几帳面さではなかった。
「やべぇ、今日も始まったぞ“秒単位バトル”が……!」
通学路で待っていた翔太郎が、手元のストップウォッチを見て叫んだ。
「なんでお前、信号の点滅と同時に靴ひも結び直してるんだよ!?」
「これを逃すと、次の0.7秒後に風が吹いて靴紐が汚れるんだ」
「予知か!?それ未来予知か!?」
璃桜がメモを取りながら言った。
「“時間因果束縛型アニマ”。所持者の行動と“秒単位の予定”が現実の因果と連動し、“遅れ”や“早まり”が直接的な災厄に繋がる。特に“開始と終了の境界”に敏感」
「つまり、今の陸斗、“時計の狂った世界”にひとりで挑んでるってことか」
「いや……それどころか、“秒のズレが運命そのものを変える”って状態になってる可能性すらあるわ」
そのとき、校門のチャイムが鳴る。
「あと11秒!」
陸斗が駆け出す。
「ダッシュ!!遅れたら“カラスが襲来”する!!」
「また予知ぃぃぃぃぃ!?」
翔太郎と緑が慌てて追いかける。だが――
「待って、あの子……!」
教室に向かう途中、幼い女の子がランドセルを落として泣いていた。
「……!」
陸斗の足が止まる。
チャイムまで残り6秒。
「でも、拾ったら“遅れる”。遅れたら、災厄が……!」
「おい陸斗!!」
翔太郎の声が飛ぶ。
「“正しいタイミング”が大事なのは分かってる!でも今は、“大事なタイミング”だろ!!」
陸斗は――一拍置いて、駆け寄った。
「大丈夫か?」
「うん……ありがと……!」
チャイムが鳴り終える0.2秒前。
カァァァァァァ!!
天からカラスの大群が降ってきた。
「マジで来たーーーーーーーー!!」
だが、翔平が登場し、ランドセルで全力撃退。
「通学路の救世主は、ランドセル防御です!!」
「なんでお前“装備者”じゃねぇのにランドセル持ってんの!?」
笑いの中、陸斗は一言だけ、息を吐いた。
「……間に合わなかった。でも、間に合わせたかったのは、“時間”じゃなくて“気持ち”だった」
その言葉に、璃桜がうっすら笑った。
「ようやく、“時間に支配されない選択”ができたのね」
その瞬間、陸斗のリストウォッチが静かに砕け、足元に浮かんでいた“アニマの紋章”が溶けた。
「もう、“秒単位で未来を測る”のは、やめるよ」
そして、遅れて登校した彼のスケジュール帳の一行目には、こう記されていた。
“7:40 心のリズムで、動くこと”
(第47話 完)