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【第47話】陸斗、“時間厳守”が運命に干渉する

 午前7時32分00秒ちょうど。陸斗は目覚ましが鳴る0.3秒前に目を開けた。

「よし、誤差ゼロ」

 その言葉と同時に、目覚ましがチリリリと鳴った。彼は素早く止め、次の動作に移る。着替え、朝食、歯磨き――どれも秒単位で完璧なリズム。だがそれは、ただの几帳面さではなかった。

「やべぇ、今日も始まったぞ“秒単位バトル”が……!」

 通学路で待っていた翔太郎が、手元のストップウォッチを見て叫んだ。

「なんでお前、信号の点滅と同時に靴ひも結び直してるんだよ!?」

「これを逃すと、次の0.7秒後に風が吹いて靴紐が汚れるんだ」

「予知か!?それ未来予知か!?」

 璃桜がメモを取りながら言った。

「“時間因果束縛型アニマ”。所持者の行動と“秒単位の予定”が現実の因果と連動し、“遅れ”や“早まり”が直接的な災厄に繋がる。特に“開始と終了の境界”に敏感」

「つまり、今の陸斗、“時計の狂った世界”にひとりで挑んでるってことか」

「いや……それどころか、“秒のズレが運命そのものを変える”って状態になってる可能性すらあるわ」

 そのとき、校門のチャイムが鳴る。

「あと11秒!」

 陸斗が駆け出す。

「ダッシュ!!遅れたら“カラスが襲来”する!!」

「また予知ぃぃぃぃぃ!?」

 翔太郎と緑が慌てて追いかける。だが――

「待って、あの子……!」

 教室に向かう途中、幼い女の子がランドセルを落として泣いていた。

「……!」

 陸斗の足が止まる。

 チャイムまで残り6秒。

「でも、拾ったら“遅れる”。遅れたら、災厄が……!」

「おい陸斗!!」

 翔太郎の声が飛ぶ。

「“正しいタイミング”が大事なのは分かってる!でも今は、“大事なタイミング”だろ!!」

 陸斗は――一拍置いて、駆け寄った。

「大丈夫か?」

「うん……ありがと……!」

 チャイムが鳴り終える0.2秒前。

 カァァァァァァ!!

 天からカラスの大群が降ってきた。

「マジで来たーーーーーーーー!!」

 だが、翔平が登場し、ランドセルで全力撃退。

「通学路の救世主は、ランドセル防御です!!」

「なんでお前“装備者”じゃねぇのにランドセル持ってんの!?」

 笑いの中、陸斗は一言だけ、息を吐いた。

「……間に合わなかった。でも、間に合わせたかったのは、“時間”じゃなくて“気持ち”だった」

 その言葉に、璃桜がうっすら笑った。

「ようやく、“時間に支配されない選択”ができたのね」

 その瞬間、陸斗のリストウォッチが静かに砕け、足元に浮かんでいた“アニマの紋章”が溶けた。

「もう、“秒単位で未来を測る”のは、やめるよ」

 そして、遅れて登校した彼のスケジュール帳の一行目には、こう記されていた。

“7:40 心のリズムで、動くこと”

(第47話 完)


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