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ロボ鉱山

 改めて魔王を倒す決意を固めた私は、次の精霊が待つロボ鉱山へ急ぐことにした。時々パンデモニウムが話しかけてくるけど無視無視!


「ロボ鉱山では何の精霊が修行してくれるの?」


 貴族の常識とやらをまったく知らない私は、なんとなく相手を指定せずに尋ねてみた。


「土の精霊ですね。かつての勇者フルモはそこで光の魔力を強めたとか」


 アルスがさらりと答える。エイブリーが得意げに話してくるかと思ったんだけど、当の本人はなにやら思案顔。フルモが魔王になったから複雑な気持ちになっているのかもしれないね。


「光の魔力ね……つまり電気についての理解を深めたってことね」


 光でも魔力でもないけど、その真相を人々に教えると神の力が弱まるかもしれないから、誤解させておいた方がミラマーにとって都合がいいんだろう。エイブリーに雷の仕組みを教えようとしていた私は既に魔王的な行動をしていた模様。


「そのロボ鉱山が見えてきたわよ」


 アメリアが道の先を指差した。そちらに目を向けると、なんだか青々とした普通の山が見える。


「なんだか普通の山ねー、ロボットっぽい感じかと思ったのに」


「どんな感じだよ」


 ロボ鉱山っていうぐらいだからなんか機械的なカクカクした感じを期待していたんだけど、そんなことはなかったね。


『それはあなたが心の奥底では〝そんなわけはない〟と思っているからですよ』


 空飛ぶ城がなんだか意味深なことを言ってる。でも私は勇者ルートを進むと決めたのでこいつの言葉には耳を傾けない。


「前回のことを考えると、そろそろ土の精霊の方から接触してくるのではないでしょうか」


 アンナが私達に注意を促してくる。風の精霊はスパルタだったからね。ちょっと死にそうになったし。アメリアとエイブリーが緊張に身を硬くするのがわかる。アルスはいつもと変わらない。


『ではその希望に応えて、ここらで授業を始めようじゃないか』


 今度は野太いおっさ……成人男性の声が聞こえた。これが土の精霊か。風の精霊といい、年齢層高くない?


「まだ山に着いてないけど」


 ロボ鉱山はまだ先の方に見える。いくらなんでも気が早いんじゃない?


 とか思ってると地面からズモモモと人型の何かが出てきた。土の精霊だからって土から出てくるのやめて。


「はっはっは、ここはもう山の裾野さ。目に見える姿だけが真実ではない。世の中には見えないものが多いと知っておきなさい」


 完全に姿を現した土の精霊は、声を聞いた時に想像していた髪が薄くて小太りの中年男性……ではなく、スマートな体型でグレーの背広を着て茶色の髪を撫でつけた紳士だった。


「よろしくお願いします!」


 元気よく挨拶をするエイブリー。なんかもう、そのテンションにもついていけないんだけど。何でもいいからさっさと終わらせて家に帰って賢者ルートに戻らせてよ。(※そんなルートに入っていたことは一度もない)


「さて、風の精霊は魔法での防御を教えてくれたね。防御ができるようになったら、次は攻撃だ」


 なんだか流れで授業が始まってしまった。土の精霊も私達の周りに壁を作る。風の精霊と違って石の板みたい。そこにデカデカと「攻撃」と黒い文字が浮かぶ。


「魔法での攻撃は今までも沢山やってきましたけど」


 アメリアが怪訝な顔で質問する。そうね、確かに魔法と言ったら攻撃魔法とばかりにカカシやらゴブリンやらを攻撃する授業ばっかり受けてきたよね。


 だけど土の精霊はなんだか含みのある笑みを浮かべて首を振った。


「君達が今までやってきたのは魔法で自然現象を再現する方法だ。たまたまそれらが攻撃として使えていただけで、攻撃するための魔法とはとても言えないのさ」


 おお、なんかもっともらしい。こういう魔法の授業こそ私がずっと求めてきたものなので、土の精霊が話す言葉を夢中になって聞いてしまう。


「では、どうすれば魔法で攻撃したと言えるのでしょうか?」


 エイブリーが手を挙げて質問すると、土の精霊は指をパチンと鳴らして少し離れた場所に土のゴーレム的なものを作り出した。


「見ていなさい」


 お手本を見せてくれるらしい。いきなり実戦形式だった風の精霊よりはだいぶ優しい。


「ふんっ!」


 土の精霊はいきなり拳を作ってゴーレムに向かって突き出した。ボゴォンと大きな音を立てて爆発四散するゴーレム。南無三!


 なるほど、全然わからん。


「どうだい、目で見ても何をやったのかまるで分からなかっただろう?」


 ポカンと口を開けながらコクコクと頷く子供組。分からないのが正解だったのか。よかった、意味不明なことを言ってくる脳筋キャラじゃなくて。


「さて、今の攻撃を敵が放ってきたとして、君達は風の精霊に習った魔法で防御できるだろうか?」


「無理です。防ぐイメージが湧かないので」


 私が率先して答えた。土の精霊の言わんとしていることを理解したからだ。


「いい答えだ。君は今回の授業の目的を早くも理解したようだね」


 土の精霊は我が意を得たりとばかりに満面の笑みを浮かべる。これは攻撃の授業であるということも合わせて考えれば、敵に防がれない攻撃をする方法を教えてくれるのだろう。でもそれだと、せっかく風の精霊に教わった戦闘の基礎、常に防御を意識するっていうのが無意味になっちゃわない?


「実は今私が使った魔法は今の君達の能力で十分に防げるんだ。でもそうやって〝防げない〟イメージを持ってしまったよね。これこそが相手の虚をつく、攻撃のための魔法なんだ」


 ここまで話すと、また石の板に絵や文字を書きはじめた。板の上部には「目に見えるということ」と書かれており、下にはやたらとリアルな目の絵に矢印が向かっている。唐突に前世の記憶がよみがえった。人間の目は入ってくる光に反応して脳で映像を作り出す。可視光やら脳の領域やら。


 そうだ、人間は目で見ているけど映像として認識しているのは脳の方。だから脳の認識が狂うとあるはずのものが見えなかったり、ないはずのものが見えたりする。もしかして幻覚の魔法を教えてくれるのかしら。


 脳筋どころか、かなりテクニカルな戦闘技術を教えてくれるみたいだ。土の精霊のイメージが変わっちゃうね。

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