「デュフフフフフ。さあ、あとはこの藪医者を始末するだけでごわすな」
エミへと「
「まあ安心するでごわす。命までは取らんでごわすよ。・・・・・・殺してしまっては、目の前で妻が辱められる様を見せられないでごわすからな」
ユリエルは左手をエミルの方へとかざし、再び「
しかし、そんな絶体絶命の状況にも、エミルは回避しようというそぶりすら見せず、電極棒を構えてこそいるものの、ただ平然と立っているままであった。
「・・・・・・どうしたでごわす? もしや、もう諦めたわけではないごわすな?」
「どうだろうな」
エミルがやや挑発的な笑みを口元へ浮かべたそのとき。
「……!」
ユリエルの背後から足払いが決まり、6歳児の身体は容易く後ろへとバランスを崩した。ユリエルはそのまま背中から転倒し、死角からの不意打ちで受け身も間に合わず、思い切り頭を地面に打ちつけた。
「痛たた……」
衝撃で痛む頭を押さえながら、足払いを仕掛けた犯人のいる方へと視線を向けたユリエル。そして、その視線の先にいた人物に、ユリエルは大きく目を見開いた。
「なっ、なぜ女が……!? おいどんの「刻の牢獄」は確かに決まったはず……」
「さあ? なぜだろうな」
「……!」
ユリエルがエミへと気を取られている隙に、エミルが馬乗りになり、電極棒をその首筋へと突きつけた。
***
テンセイ症患者が元に戻った事例は、過去に一例だけ存在する。
それは、患者がたまたま雷に打たれ、意識を失ったケースだ。懸命な治療により患者は一命を取りとめ、意識が回復した際に人格が元に戻っていたのだ。
当然のごとく「患者を昏睡させることがテンセイ症治療の糸口となる」という仮説は瞬く間に広まるところとなったのだが、ここで一つの壁にぶち当たることとなる。
それが、テンセイ症患者に発現する特異能力の存在だ。冒険者たちの扱うそれに似ているから「スキル」と呼ばれることもあるそれだが、その強力さは並の冒険者のそれとは比べ物にならない。とある大国では、強力な軍隊を作るためにテンセイ症を意図的に発症させる方法を研究しているなんて噂もあるくらいだ。
結局のところ、患者が暴れ出してしまえば腕自慢たちが束になっても敵わないという事態に陥るため、患者を昏睡させようにも、その現実的な方法が無い。大きな一歩を踏み出すかに思われたテンセイ症治療の研究だったが、こうして頓挫し、その進歩の道は断たれたのであった。
……とある精神科医と看護師のペアが彗星のごとく現れるまでは。
***
「じ、慈悲を……! おいどんは……おいどんはまだ、消えたくないでごわす……!」
無様に鼻水を垂らしながら、泣きじゃくって懇願するユリエル。
「別にお前に恨みはねえが……まあ、金のためだ。さっさと消えな」
しかし、エミルは意にも介さず、容赦なく電極棍のスイッチを入れた。それが突き立てられた首筋から、高圧電流がユリエルの全身を駆け巡る。
「あぎゃぱあぁぁぁあああああ!!!!!」
ユリエルの肉体は白目をむいて泡を吹き、ユリエルだったものはそのまま意識を失った。