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治療開始Ⅰ

「デューフッフッフッフ。おいどんの見立て通り、この女はやっぱりいい乳をしているでごわす」


 抵抗の術の無い女性の両乳房を服上から乱雑に揉みしだきながら、涎を垂らし、なめ回すような下品な視線をその全身へと向けるユリエル。


「この身体が勃ちさえすれば、もっとあんなことやこんなことまでしてやりたいところなのでごわすが……まだ6歳児なのが玉にきずでごわすな。女湯に堂々と入れるのはいいんでごわすがな。まあ今は、そのパンティとブラをもらい受けるくらいで勘弁してやるでごわす」


 そう言ってユリエルが女性のローブの下のミニスカートをめくり上げ、履いている下着に手をかけようとしたとき……。


「痛っ!」


 どこからか飛んできた石礫がその手首を捉え、ユリエルは不意の痛みに、手首を庇いながら仰け反った。


「……何の真似でごわすか?」


 石礫の主を、そのブルートパーズ色の瞳で鋭く睨みつけるユリエル。


「エミル・アンブローズ……精神科医さ。お前のことを治療しに来た」


「……精神科などにかかった覚えはないのでごわすが」


「お前の母さん……いや、お前の元人格中身の母さんと言った方が正確か……にお前邪魔者を消すように頼まれてな」


「・・・・・・あのブスババァめ・・・・・・あとで覚えてろでごわす」


 ユリエルが唾を吐き捨てながら毒づく。


「お前が母さんに合うことはもう無いがな」


「さっきから言わせておけば……痛い目見てから後悔しても遅いでごわすよ?」


 エミルとユリエルの対峙する間に、一触即発の張り詰めた空気が漂う。


「はぁ……はぁ……」


 そのとき、その静寂を破るように、わずかに女性の喘鳴が聞こえた。


「……!」


 ユリエルが喘鳴のする方向へと視線をやると、目の前で起こっていることが信じられないとばかりにその目を見開いた。


「もう大丈夫です。早く逃げてください」


「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます……!」


 ユリエルの視線の先では、エミが術の溶けた女性に逃げるように促している。


「馬鹿な・・・・・・いや、逃がすか! ……おっと!」


「よそ見とはずいぶんなめられたものだな」


 一目散に走って逃げる女性の後ろから、再度「刻の牢獄ティエンポ・プリシオン」をかけようとするユリエルだったが、エミルからの一撃に気がついてとっさに身をかわす。


「……スタンガンでごわすか。この世界の精神科医とやらはずいぶん手荒な真似をするのでごわすな」


「この電極棒のことか? コイツでどつき回せば、どんな暴れん坊のガキでもおとなしくなるからな。注射を打つのに便利なんだ」


 エミルの右手に握られているのは、長さ54cm・直径5cm程度の細長く黒い棍棒。その打突部分には、青白い電流が迸っている。


「当たらなければ無意味でごわすがな。・・・・・・いや、今はそんなオモチャよりも・・・・・・そこの女。貴様、今いったい何をしたでごわすか?」


 ユリエルはエミの方へと向き直り、睨みつける。


「何のことでしょうか?」


 しかし、エミはまったく動じず、涼しい顔で素知らぬふりを決め込んでいた。


「おいどんのスキル:『刻の牢獄ティエンポ・プリシオン』は、術者が術を解くまで永続のはず。いったいどんな小細工をしたのかって聞いてるんでごわす」


「答える義理があるとは思えませんが」


 なおも涼しい顔を崩さぬエミに対して、ユリエルが徐々に痺れを切らし、苛立ちが露わになっていく。ユリエルもそれを自覚したのか、一度呼吸を整え直すと、エミの全身をなめ回すように観察しながら口を開いた。


「・・・・・・よく見ればお主もいい身体をしているでごわすな。それに、夫の前でその妻を辱めるというのもまた一興にごわす。あの女を勝手に逃がした報い、その身体に存分に刻み込んでやるでごわすよ!」


 左手を広げて前方へかざし、エミの方へと狙いを定めるユリエル。


「くらうでごわす!!! 『刻の牢獄ティエンポ・プリシオン』!!!」


 その刹那、時計を模したような形の魔方陣の数々がエミの身体を縛り上げるように巻き付き、そして消えていった。

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