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第52話 ガラクタ屋は商売上手


 連れて来られたのは小さな中古アイテムショップだった。

 店の中には所狭しと商品が並んでいるが、どの商品も一級品とは呼べない代物だ。

 それどころか、刃の欠けた剣や、焦げ付いた鍋まで置かれている。


「ここは……武器屋? 道具屋? 両方とも、さっきの通りにもっと大きなお店がありましたけど」


「ここで合っている」


 シリウス様は慣れた様子で店内を物色し始めた。

 どうやらこの店の常連のようだ。


「おお、旦那! 今日もいろいろ入ってますぜ」


 店の奥から小太りの男が出てきた。

 商人のイメージ通り、手を擦り合わせながらの登場だ。


「シリウス様。この店、ガラクタばかりですよ」


「おや、旦那の妹さんですかい? お兄さんにガラクタ収集の趣味があると家が散らかって大変でしょう。こっちとしてはガラクタを引き取ってもらえて万々歳ですがねえ」


 店主に聞こえないようにシリウス様に耳打ちをしたつもりだったが、しっかりと聞かれてしまった。

 しかし店主は怒っていないようなので一安心だ。

 しかし。


「妹じゃありません。恋人です………………未来の」


「へえ。旦那にはイイ人がいたんですねえ。通りで年頃の娘に声をかけられても見向きもしないわけだ」


 シリウス様は聞こえているはずなのに、私たちの会話を無視してガラクタを漁っている。

 ……って、ちょっと待って。店主の今の発言は聞き捨てならない。


「シリウス様は年頃の娘に声をかけられてるんですか!?」


「ははっ、怒っちゃあいけませんぜ。これだけの美形なら仕方がないってもんです」


「でも、年頃の娘には見向きもしないんですよね!?」


「あっしの見た範囲では、ですけどねえ」


 どうして今まで、シリウス様が一人で町へ行くことを止めなかったのだろう。

 シリウス様のような美形が一人で町を歩いていたら、悪い虫が付くに決まっているのに。

 今のところはシリウス様のコミュニケーション下手が功を奏しているが、これからはシリウス様が町へ行く際には私も同行して横で目を光らせないと。


 もしもそれが無理な場合は、年頃の娘たちが近付くのを戸惑うような奇抜な格好をして行ってもらおう。

 ……だけど、シリウス様なら奇抜な服も着こなしてしまいそうだ。

 ああ、まさかシリウス様が美形なせいで悩む日が来るなんて。


「ここだけの話。あんな美形がガラクタ屋に入って来たから、最初は冷やかしかと思ったんですぜ。あまりにも店の雰囲気と合っていないもんですからねえ」


「店主が店の商品をガラクタと言ってしまっていいんですか?」


 商人が自分の売っている商品をガラクタ扱いするなんて、売る気が無いとしか思えない。

 そんな私の思考を読んだように、店主が人差し指を立てて左右に振った。


「うちは質の悪いものを安値で売る店ですからねえ。こういうのを隙間産業と言うんです。何にでも需要があるもんですぜ」


「需要……これが、ですか?」


 私は気になっていた、刃の欠けた剣を手に取った。

 初めて持つ剣は、想像していたよりもずしりと重い。


「おっ、彼女さんはお目が高い! これは兵士から買い取った中古の剣なんですがね、普通の剣として使うには切れ味に問題ありですが、防犯用として屋敷に置いておくには十分な代物です。屋敷に剣が置かれているという事実が、強盗の防止になるんですぜ。鞘に納めて置いておけば、刃が欠けているところなんて見えませんからねえ」


 そういうものだろうか。

 実際のところは分からないが、店主の説明を聞いているとそんな気がしてきた。

 きっとこの店主は、商人として優秀なのだろう。


「ここで買ったガラクタを焼いて、別の物に作り変えるお客さんもいますぜ。あとは魔法使いが魔法の素材として使うとか……実は旦那がそうじゃないかと睨んでいましてねえ。兵士にしては細身だし、農民にしては日焼けをしていない。だからと言って貴族はこんな店には近寄らない。つまり、日中室内で研究をしている魔法使い……」


「前にも言っただろう。余はただのガラクタ収集家だ。そもそも客の身元を探らないのがこの店の売りではなかったか?」


 いつの間にか私たちのすぐ横にいたシリウス様が、店主を睨んでいる。

 シリウス様に厳しい口調でピシャリと言われた店主は、途端にへらへらと笑いながら手を擦り始めた。


「すみません、旦那。可愛らしい彼女さんとお喋りがしたくて、つい口が滑っちまいました」


「可愛らしいだなんて……シリウス様もそう思います? 私って可愛らしいですか?」


 シリウス様に腕を絡めながら上目遣いで聞いたが、シリウス様はいつもと同じ反応だった。

 つまり、無視だ。


「会計を頼む」


「んもう、照れ屋なんですから!」


 シリウス様の周りで跳ねて猛アピールする私を、店主が生温かい目で見守っていた。



   *   *   *



「たくさん買いましたね、ガラクタ」


「素材は多い方がいいからな」


 シリウス様は大荷物を持ったまま路地裏に隠れると、魔法で荷物を転送した。

 きっとすぐに、城に購入したガラクタたちが届くはずだ。


「魔法道具作りに使うんですか?」


「アクセサリーの素材にすることもある」


 アクセサリーの素材……もしかして、私がもらったネックレスの金属部分、元はガラクタだった?

 血をよく吸った剣で作ったネックレスだったりして。

 なんだか呪われそう。


 …………まあいっか。

 シリウス様が私のために用意してくれた、シリウス様お手製の品には変わりないし。

 愛は呪いに勝つはずだ。


 こうして転送魔法を完了させたシリウス様と私は、また表通りを歩き始めた。




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