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第9話


【side ルーベン】


 俺が王城に戻ると、城内は大騒ぎになった。誰もが俺は死んだものだと思っていたらしい。

 すぐに国王に事の顛末を報告し、暗殺の首謀者である弟は国外追放となった。

 なお実行犯である弟の手下たちは処刑された。

 そして騒ぎが落ち着いた頃、老婆もといあの女を王城に呼び寄せようと部下たちを森に派遣した。

 しかし。


「誰もいなかった? どういうことだ!?」


「誰かが住んでいた形跡はあったのですが、家はもぬけの殻でした。老婆も女もおらず、住人の私物らしきものもありませんでした。住んでいた者はすでに立ち去った後かと思います」


「なぜ……」


 彼女女があの家から立ち去る必要がどこにある。

 俺がいた間、誰かが家を訪ねてくる様子は無かった。彼女も誰かの訪問に怯えている様子は無かった。

 つまり彼女は追われているわけではなく、森で悠々自適な生活をしていただけだ。

 森から移動する理由など無いはずだ。


「女の身元調査はどうなっている」


「どうやら何の届けも出さず、勝手にあの家に住んでいたようです。平民の間ではよくあることでして……」


「近隣住民の証言は?」


「森から近い家に住む町民たちも、森に女が住んでいることは知らなかったみたいです。どうやら女は完全に森の中で自給自足をしていたらしく町には行っていなかったようで……」


 あの森で長年、自給自足など出来るものだろうか。

 いや、姿さえ老婆に変えていた彼女のことだ。ずっと森で暮らしているという発言も嘘かもしれない。

 そこまで考えたところで、あの家で食したスープの味を思い出した。

 あのスープの味付けには、森では手に入らないだろう調味料が使われていたのだ。


「嘘確定、か」


 彼女は、何もかもを嘘で隠している。一体、なぜ。


「……パーティーに出たいようだったな」


 唯一、嘘をついていないであろうこと。

 彼女はパーティーに参加する意志があるようだった。

 それならば。


「来月のパーティーは面白い催しにしようと思う」


「面白い催し、ですか」


「そうだ。これまでになく話題のパーティーになるはずだ」





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