【ｓｉｄｅ　ジェイミー】

　転移魔法でルーベンを王城に送り届けた私は、またすぐに転移魔法で森にある家へと戻った。

　転移魔法の連続使用で立ちくらみがしたため、一旦椅子に座って部屋を眺める。

　小さなキッチンにはルーベンと私の二人分のコップが置かれている。

　先程までこの部屋にルーベンがいた証拠だ。

　忙しなく情緒の無い別れだったが、これでいい。

　今回の人生ではこれ以上ルーベンとは関わらない予定だから。

「さて。この家ともお別れね」

　結界を張り終わったらさっさと移動しようと思っていたのに、予定よりもずいぶんと長いことこの家に滞在してしまった。

「次の予定まで町でのんびり過ごそうかしら」

　次に聖女の力が必要になるのは、来月の王城。

　どうやったのか王城に忍び込んだ魔術師が、パーティーの最中に王城に魔物を解き放つのだ。

「今回は私もパーティーに潜入する必要があるのよね」

　過去三度の人生では、私は聖女として認められ、王城に招待されていた。

　しかし今回は私が王城に呼ばれることはない。

　だから魔物を倒すためには王城に潜入する必要があるのだ。

「ルーベンを助けたお礼として王城に招いてもらうことも考えたけど、それだとルーベンと接点が出来ちゃうのよね」

　すでにルーベンを助けたことで接点が出来たと言えなくもないが、私は老婆に変身して過ごしたため、ルーベンは本当の私を知らない。

　しかし王城ではそうもいかないだろう。入口に魔法解除の仕掛けが施されているため、変身魔法を掛けたまま侵入など出来ないはずだ。

「王城に忍び込んだ魔術師はどうやったんだか。私にも教えてほしいものだわ」

　ルーベンがいたことでなりを潜めていた独り言を呟きながら、荷物をまとめる。

　必要最低限しか物を持っていなかったため、あっという間に荷造りは完了した。

　　　＊　　　＊　　　＊

　森で採取しておいた薬草を換金すると、しばらくは町で暮らせる額になった。

　その金で宿賃を払い、町の宿屋に宿泊する。

　この町にいるのもそう長い期間ではない。家を借りるのではなく、宿屋で暮らすくらいで十分だろう。

「とはいえ、せっかく町で暮らすんだから、可愛い服も着たいし、美味しいお菓子も食べたい！」

　そのためには。

　私は持っている中で一番マシな服に着替えると部屋を出た。

　念のため髪色を銀から茶色に変えることも忘れずに。

　そして町を歩き、探していたものを見つけると、すぐに店の中に入った。

「すみませーん、表に貼ってある従業員募集の紙、あれってまだ募集してますかー？」

　この町で、働いてお金を稼ごう！