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第3話

アンドロイド0Aの希少価値について。そんな見出しが雑誌に付いた頃、シティでは0Aの狩りが行われていた。野蛮人たちに加えてアンドロイドまでもが狩りをする。地獄のようだ。

しかも特徴はシンフォニックに似た容姿で、数も少ないため血眼になっている。

サエキは雑誌を片手にシンフォニックの病室へ行くと、シンフォニックにそれを投げつけた。

『これは何?』

『何?』

驚きもせずシンフォニックは雑誌を拾い上げる。ペラペラと捲るとフフと笑った。

『何もしてない。君には誓える。』

『・・・なら、どうして?』

詰め寄るサエキにシンフォニックは愛しそうな瞳で微笑む。

『うん、多分・・・あの担当医師じゃないかな?』

『話したの?』

『いいや、君に誓うよ。断じて・・・。』

サエキは震える拳を握り締めるとシンフォニックを睨んだ。

『分かった。あなたを信じる。』

踵を返して病室を出るとシンフォニックの担当医師の下へと向かう。彼はサエキを見るや否や嬉しそうに駆け寄った。その顔にサエキは拳をたたきつけた。

わけも分からずに倒れこむ医師は震えながらサエキを見る。

『な、なんですか??』

『あなたがリークを?』

『リーク?』

サエキがアンドロイドタイプ0Aの名を出すと医師は嬉しそうに笑った。

『そう!そうなんです。シンフォニックが協力してくれたおかげで何と繋がっているか分かったんです。ええ!0Aですよ。それを論文に書いて、そしたら。』

彼が言い終わる前にサエキは前かがみの医師の顔を蹴り飛ばした。

『何をしたか・・・わかっていますか?』

鼻血に濡れた顔を拭い医師が怯えた目を向ける。

『な、何が・・・サエキさん、ぼう、暴力はいけませんよ?』

サエキは彼の前にしゃがむと冷静な声で言った。

『希少価値の高いものは命があろうとも物のように扱われます。扱う者が悪ければ命すら取られてしまう。あなたは医師でありながら、命の意味をわかっていない。』

『・・・しかし・・・アンドロイドですよね?』

当たり前の返答にサエキは頷いた。

『そうです。』





タイプ0Aの捕獲がネットで話題になっている。恐ろしい動画も上がり、背筋が寒くなる。少しでも0Aに似ている、もしくはシンフォニックに似ているとなれば虐待じみた悲鳴が緊急ダイアルに入ると同僚たちに聞いた。

人も機械もお構いなしらしい。

0Aであるエージェントは髪型を変え眼鏡をするようになった。それでも危ない場合は変装用のマスクを装着する。マスクはラバーで違う人物になる。

エージェントは始め面白がってはいたが深刻化する状況に『怖い。』と素直に洩らしていた。

恐怖はサエキにもあり、いつエージェントが酷い目に遭うのではないかと外では極力会うのを避け、次第に二人の時間が減っていった。

その間もシンフォニックのカウンセリングという名の時間だけが増え、サエキの夢を見るエージェントの話ばかりが増えていた。

『それで。シンフォニックはどうするつもり?』

サエキはベットに座るシンフォニックと話していた。

『そうだなあ・・・今は危ないからここにいるかな。出来ればあの惑星に戻りたいと思ってる。』

『博士はもう居ないでしょ?一人で?』

『うん、博士は居ない。一人でも良いんだ・・・あの場所は自由だから。』

『自由?』

シンフォニックは微笑む。

『そう、自由。シティに居た頃は時間に追われて酷い扱いも受けた。写真を撮るためにいろんな・・・思い出したくもないけどね。』

『ああ。』とサエキはシンフォニックの初期の頃の写真集を思い出す。その頃は本当に酷い写真があったのだ。

『博士が色んなことを教えてくれて・・・幸せだった。時々写真を撮ってくれた。ただ笑っている写真。それがね・・・あそこにはあるんだ。』

少し懐かしそうにシンフォニックが笑う。

『そう。』

『君にも見せてあげたい。博士はとんでもなく写真がヘタでね。』

そう言うとベットにごろんと仰向けに寝転んだ。

『・・・謝っておく。タイプ0Aのこと。こうしていつも見ている君の優しい顔を向ける0Aがまだ無事だってね。それだけでも良かった。』

サエキは俯くとただ頷いた。




その日は晴天でやけにシティは明るかった。

サエキはいつもどおりに病院へ向かっていた。丁度ビルのモニターが光ってニュースが流れる。アナウンサーは冷静な口ぶりで伝えた。

『本日、早朝にシンフォニックが死亡しました。暴漢によるもので銃で頭を撃ちぬかれたようです。』

サエキは足を止めてビルを見上げた。

『繰り返します。本日、早朝にシンフォニックが死亡しました。・・・。』

周りの人たちはざわめき手の中の端末を見ている。サエキは迷うことなく走り出していた。

病院ではすでに警察が捜査を始めている。サエキを見つけると事情が聞かれた。

息を切らしてきたカウンセラーを犯人にする馬鹿はいないかと思ったが、長い尋問にサエキは吐き気がした。




ようやく開放されてサエキはフラフラな足取りでエージェントの元へ戻った。

エージェントもまたシンフォニックの死亡を知っていたようで、サエキから事情を聞くと驚いていたが納得もしていた。

いつも見る夢がシンフォニックと繋がっていると彼はすぐに理解したようだった。ただ死亡したシンフォニックからの情報はないらしく、恐ろしい思いはしなかったようだ。

サエキはエージェントを抱きしめると言った。

『あとタイプ0Aがどれくらいいるのかわからない。けれど最後の最後まで狩りは続くかも知れない。』

『分かってる。外に出る時はマスクをしているよ。』

『でも・・・いずれ。』

エージェントはサエキにキスを落とす。

『・・・シティが危ないなら・・・惑星がある。』

『まさか・・・惑星754WPR66。』

『そう、シンフォニックは危ないこともしたけど、助かる道も与えてくれた。ねえ、サエキ。君も一緒に行くかい?』

『一緒に?』

考えたことなどなかった。でも安全であるならば・・・願わずにはいられない。

『そうね。惑星行きのロケットがあったはず・・・手配しよう。』

エージェントはにこりと笑う。

『そうだね、大急ぎで。』



惑星754WPR66行きのロケットは数便、明日の深夜に出発する。

エージェントは先に行きエアポートで待ち合わせをした。サエキは仕事を辞めて荷物を纏めると上司に辞表を出した。

『世の中物騒だからな。』

上司はそう言っただけで特には事情も聞かなかった。夜遅くにやっと荷物を持ちエアポートに向かう。自動運転タクシーでエアポートに到着すると、惑星754WPR66行きの人が溢れていた。

荷物を預けて手続きを終わらせる。カウンターを離れると鞄の中で端末にメッセージが届いた。

『今何処?』エージェントが探しているとメッセージを送ってきた。

サエキは周りを見渡すと搭乗口への扉の前にエージェントを見つけた。

エージェントに駆け寄りサエキが微笑むと、彼は少しサングラスをずらして微笑んだ。

『マスクは?』

『つけてたら君が僕を探せない。』

『でも危ない・・・ねえ、エージェント?』

サエキが視線を上げてエージェントを見た時、彼の額から血が溢れた。穴がぽつんと開いてサエキに倒れこむ。

サエキの肩が赤で滲んでいく。

『あああ・・・。』

エージェントは薄目を開けたままで動かない。瞳孔が開いているのが分かった。

サエキたちの様子に気付いた人が悲鳴を上げる。それに驚いたのかエージェントを撃ったであろう人影から銃が落ちた。

ざわめく人ごみの中でサエキはエージェントを寝かせるとゆっくりと立ち上がり、エージェントを狙ったであろう銃を拾う。まだ熱いそれに触れると両手で構えた。

震える瞳でサエキを見ているのは子供だった。

『おもちゃだと・・・聞いてたんだ。』

震える声で子供は言う。サエキの耳には届いていたが涙で視界が揺れていた。

そしてゆっくりと引き金を引いた。





真っ白い部屋。右側にはマジックミラーが貼られている。

目の前の大男は先ほどから私の顔を覗きこんでは睨みつけ、筋張った拳で何度も何度も机を叩いている。

『あんたは子供を撃ち殺した。違うか?』

繰り返される言葉の意味を私は理解している。

それでも首を縦に振ることはない。

サエキはただ目を閉じる。

目の前には震える瞳の子供がサエキを見つめている。

『おもちゃだと・・・聞いてたんだ。』


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