いつもの朝がやってきた。
ギルドの窓から差し込む光、カウンターで交わされる賑やかな挨拶。
私、マリエルは、今日も受付の椅子に腰掛ける。
もう、迷わない。
ここは“私の居場所”――皆がそれを教えてくれた。
「おはよう、マリエルちゃん!今日もよろしくね!」
ミレーヌさんが元気よく手を振り、
「昨日の地図、すごく助かったって感謝されたよ」とユウさんが微笑む。
「怨霊ちゃん、今朝はなんか雰囲気いいな?」
常連の冒険者グレンさんがからかいながらも、
「新しい依頼、よろしく頼むぜ」と親指を立てる。
「はい、今日も張り切ってまいります!」
私は、昨日までより少しだけ明るい声で答えた。
――それでも、ほんの小さな不安が心の奥に残っている。
(“ずっと”この日常が続くのかな……)
そんなふうに思ったとき、ギルドの扉が静かに開いた。
まだ若い女性が、見慣れぬ旅装束で立っている。
彼女の背後には、どこか異国めいた空気と、不思議な黒猫の影。
「すみません、冒険者登録をお願いしたいんです」
彼女の目はどこかまっすぐで、でも少しだけ影がある。
私は思わず見つめ返す。
(――もしかしたら、あの人も“普通じゃない何か”を抱えているのかもしれない)
手続きを始めながら、私は感じていた。
このギルドには、きっとまだ知らない物語が、たくさん生まれていくのだろう。
カウンター越しに広がる、色とりどりの人々の人生。
誰もが“居場所”を探してやって来て、
誰かに必要とされて初めて、自分の役割に気づく。
――今日もまた、新しい一日が始まる。
ギルドの片隅で。
死者である私と、生者たちの物語は、まだまだ続いていく――。
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