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第8話 エピローグ 新しい朝の予感

 いつもの朝がやってきた。

 ギルドの窓から差し込む光、カウンターで交わされる賑やかな挨拶。

 私、マリエルは、今日も受付の椅子に腰掛ける。


 もう、迷わない。

 ここは“私の居場所”――皆がそれを教えてくれた。


「おはよう、マリエルちゃん!今日もよろしくね!」

 ミレーヌさんが元気よく手を振り、

「昨日の地図、すごく助かったって感謝されたよ」とユウさんが微笑む。


「怨霊ちゃん、今朝はなんか雰囲気いいな?」

 常連の冒険者グレンさんがからかいながらも、

「新しい依頼、よろしく頼むぜ」と親指を立てる。


「はい、今日も張り切ってまいります!」


 私は、昨日までより少しだけ明るい声で答えた。


 ――それでも、ほんの小さな不安が心の奥に残っている。


(“ずっと”この日常が続くのかな……)


 そんなふうに思ったとき、ギルドの扉が静かに開いた。

 まだ若い女性が、見慣れぬ旅装束で立っている。

 彼女の背後には、どこか異国めいた空気と、不思議な黒猫の影。


「すみません、冒険者登録をお願いしたいんです」


 彼女の目はどこかまっすぐで、でも少しだけ影がある。

 私は思わず見つめ返す。


(――もしかしたら、あの人も“普通じゃない何か”を抱えているのかもしれない)


 手続きを始めながら、私は感じていた。

 このギルドには、きっとまだ知らない物語が、たくさん生まれていくのだろう。


 カウンター越しに広がる、色とりどりの人々の人生。

 誰もが“居場所”を探してやって来て、

 誰かに必要とされて初めて、自分の役割に気づく。


 ――今日もまた、新しい一日が始まる。


 ギルドの片隅で。

 死者である私と、生者たちの物語は、まだまだ続いていく――。



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