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ep09:三人の武器

「じゃあ、ユヅル。その剣であの枝を切り落としてみろ」


 ゲンは近くにある大木の、飛び出している枝を指さして言った。


「よしっ、まかせろ!」


 俺は剣を上段に構え、木の枝目がけて力任せに振り抜いた。


 …………!?


 シュンッという風切り音はしたが、その枝は揺れさえしなかった。剣は枝をすり抜けたのだ。


「ハハハ、何やってんだよユヅル! そんなんじゃ動いている魔物は斬れないぞ!」


 クイナが笑って野次を飛ばす。


「いやいや、クイナ。今ので正解なんだ。俺たちが扱う武器は、魔物以外には全く通用しない。その代わり、隣にいる仲間も傷つく事は無いから安心してくれ。間違っても、野生動物なんかにこの武器で立ち向かったりするなよ。逆にやられるぞ。——じゃ、次は誰にするかな」


「はい、はいっ! アタシがやる!」


 クイナが元気よく手を上げた。自分の武器はどれだろうと、リュックから取り出した荷物をかき分けている。


「実は、クイナに限ってはもう装着してるんだ。皆、グローブを着けていると思うが、クイナのだけ少し違うだろ。シューズに関しては見た目は変わらんが、それもクイナ専用だ」


 確かに。クイナのグローブだけは、手の甲をプロテクターのような物が覆っている。総合格闘技の選手が着けている、指ぬきグローブのような形だ。


「立ち上がって、俺と同じポーズを取ってみろ」


 ゲンはそう言って、ボクサーのようなファイティングポーズを取った。クイナがそれを真似ると、プロテクター部分が前にせり出し、ボクサーのグローブのようになった。


「おおっ!」


 クイナが驚いて声を上げる。


「で、こうやって拳で打ち抜く」


 ゲンは右拳を前に突き出すと、クイナも合わせて拳を突き出した。


『ブウン』と大きな音を立てて、グローブの先端が大きく伸びた。


「上手い上手い。クイナの気持ちの入れ具合で、その伸び率や大きさなどが変わる。今度は、前に敵がいると思って、キックをしてみてくれ」


 クイナは言われるまま前方に足を蹴り出すと、今度はシューズの底が大きく伸びた。クイナのキックの姿勢は、まるで空手の有段者のようだった。


 大喜びするかと思ったクイナだったが、何故だか浮かない顔をしている。


「なあ、ゲン……ユヅルに比べて、アタシの武器は地味じゃ無いか? もっとド派手なこう……他に無いのか?」


「まあ、そう言うなクイナ。クイナは身軽なイメージがあるんだが、実際はどうだ? その場で宙返りとか出来るか?」


 ゲンが言うと、クイナはその場でクルンと後方宙返りをした。さっきは空手の有段者のようだったが、今度は体操選手のように美しかった。


「おお、流石だな。じゃ今度は、靴の先から剣が飛び出しているイメージでやってみてくれ」


 そう言われたクイナはニッと笑った。この武器の可能性に気付いたのだろう。


 クイナが次に見せた後方宙返りは、右足の先から飛び出した長いやいばが、キレイな弧を描いた。『ヴンッ』と空気を切り裂くような音が、周りに響く。


「め、めちゃくちゃカッコいい! まるで、刃の付いたサマーソルトキックだ!」


 クイナの技に俺は興奮した。アトリも「素敵!」と声を上げる。


「まあそんな感じで、クイナの武器もアイデア次第で色んな戦い方が可能だ。それと、もう一つ。クイナの武器が、一番攻撃力が高い。——クイナは好きだろ? そういうの」


「ゲンに見透かされてるのはちょっと悔しいけど……アタシは気に入ったぞ、この武器!」


 クイナは右拳を天に付きだして、そう言った。




「じゃ、次はアトリだ。そうそう、その短い杖だ」


 アトリは既にそれを手に取っていた。渋く輝くシルバーの杖は、アトリにとてもよく似合っている。


「それを前に振る。こんな感じで」


 ゲンの仕草を真似、アトリはその杖を振った。30㎝に満たなかった杖が、倍以上の長さになった。その先端には、キラキラと輝くガラス玉のような物が付いている。


「では……さっきのユヅルのように、実際にダメージを与えられる訳では無いが、この大木を燃やすつもりで杖を向けてくれ」


「こ、こうでしょうか……」


 アトリが杖を木に向けて振ると、杖の先から火が噴き出した。だが、それはとても弱々しく、調理用のガスバーナーの炎のようだった。


「——もしかして恥ずかしがってるのか? 魔物の前でそんな調子だったら、やられてしまうぞ。さっきお守りをくれた女の子が、大木の魔物に襲われてると思ってもう一度やってみろ」


「ラ、ランが……!? そ、それは許せません! や……焼き尽くせっ、灼熱の炎っ!!」


 アトリのものとは思えない大声で叫ぶと、杖の先からは辺りを真っ赤に照らすほどの炎が吐き出された。『ゴォォォォ』という底から響くような低音と供に、炎は大木を包み込んだ。


 アトリが吐き出した炎の迫力に、誰も声が出ない。一番驚いているのは,意外にもゲンだった。


「魔法の杖を使う奴は何度も見たが、これほど迫力のある炎は初めてだ……凄いぞ、アトリ。——ま、まあそんな感じで、その杖からは炎や冷気、雷なども出せる。後はユヅルやクイナの武器同様、アトリのアイデア次第だ」


 アトリは炎を吐き出したガラス玉の辺りをマジマジと見ていた。自分があんな炎を吐き出した事に、我ながら驚いているのだろう。そしてアトリは、思い出したかのように、ランから貰ったお守りを杖にくくりつけていた。



「で、ゲンの武器は何なんだ? 早く見せてくれ」


 クイナがゲンの荷物をジロジロと見ながら言う。


「俺はこれだ。これが何だか分かるか? まあ、分かるのはユヅルだけかな」


 ゲンが取り出したのは、ガンメタ色のメカニカルな筒二本だった。


「——大砲とか、そんな感じ?」


「ご名答。こうやって脇に抱えて……」


 ゲンが両脇に抱えた筒からは、『ドシュッ』という音と供に砲弾が発射された。クイナとアトリは「キャー」と、花火を見る子供のように喜んでいる。


「今度は、こうやって二本を縦に繋いで……長距離砲とか」


 さっきより一段と大きい発射音と供に、ゲンの身体が反動で仰け反った。砲弾は遙か彼方へと消えていく。


「ちなみに、俺が一番好きなスタイルはこれだ」


 今度は両肩に砲身をセットすると、犬のように四つん這いになった。


「こいつは撃つ時の反動が大きいからな。これでお前たちを後方支援する」


 ゲンはそう言って、『ドシュッ』『ドシュッ』と砲弾を連射した。クイナとアトリは、またもや「キャー」と、喜んでいる。


 元ネタを知っているのか、知らぬのか、ゲンはそのスタイルを『ゲンキャノン』と呼んでいた。

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