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ep21:レベルアップ

「ヨタカ、実はクイナとアトリもホウクたちには酷い目に遭っている。——しかも、先日の雨乞いの儀式、生け贄だったのはこの子たちだ」


 ゲンが言うと、ヨタカは大きく目を見開いた。


「あの日、大雨が降ったのは生け贄になった方のおかげでは無かったのですか!?」


 ゲンは、あの日の事をヨタカに話した。ゲンが雨を降らせたくだりでは、ヨタカは何度もその場でひざまずこうとした。その都度ゲンは、ヨタカに顔を上げさせた。


「ゲン様、ユヅル様、あなたがたが偉大なのは言うまでもありません……だがクイナ様にアトリ様、あなたたちも同じく偉大です。自ら生け贄に志願したとは……ああ、何という方たちだ……」


 ヨタカはそう言うと、ホロホロと涙を流した。さっきのクイナ同様、他人の行動に対しては尊敬の念を抱く彼ら……俺とゲンの頬にも涙が伝う。


「ヨタカ……少なくともアタシとアトリに『様』はいらないよ。アタシたちは今日から同士だ」


「ああ、もちろん俺も。ユヅルって呼んでください」


「ありがとうございます……私の計画が、初めて大きな一歩を踏み出せそうです。少しずつですが、村の隠し倉庫では武器になるようなものも作り始めています。ご入用際には、いつでも声を掛けてください」


 ヨタカとゲンは、固い握手をした。



***



 ヨタカが部屋を、食事会に向かう準備をしているとアトリが目を覚ました。


「だ、大丈夫か、アトリ……?」


 アトリは寝ぼけ眼で、部屋を見渡している。何故、自分がこの部屋で寝ているのか分かっていないようだ。


「——だっ、大蛇はどうなりましたか!?」


「ハハハ、ちゃんと目が覚めたようだな。大蛇なら無事に勝てたよ。アトリが奴を凍らせてくれたおかげで、爆弾を打ち込めた。全てアトリのお陰だ」


「そうそう。アタシだけだよ、何も出来なかったのは。ユヅルもナイスフォローしてくれたしな」


「ああ、あれはギリギリだった……実はつかの両サイドから、武器が生成出来るかどうかは賭けだった。——ん? 誰か今、お腹なった?」


 そこそこ大きい音で、お腹の虫が鳴いた。


 下を向いたままのアトリが、恥ずかしそうに手を上げた。



***



 大蛇を退治したこともあって、食事会では大歓迎を受けた。特に、あれほどの怪我を負ったアトリが元気に現れた事に、会場は大きな驚きに包まれた。


 そして翌朝になった今、カイト村を出発する俺たちを、ヨタカたちが見送ってくれている。


「ゲン様。この度は本当にありがとうございました。このご恩は、一生忘れません。——そして、近い将来、昨日の話を実現しましょう」


 ヨタカが言うと、横にいた長老が何度も頷いた。きっと、長老にも昨日の話は伝わっているのだろう。ちなみに、表向きは長老が村の指揮を執っているが、実権はヨタカが握っているそうだ。これもカイゼたちを欺くための手段だとヨタカは言っていた。


「いやいや、こちらこそ色々とありがとう。全ての魔物を退治した暁には、共に立ち上がろう。それまでどうか、元気でいて欲しい」


 ゲンとヨタカは、再び固い握手を交わした。




 俺たちは再び北へ向けて進み始める。そして今日の初戦、アトリが驚いた声を上げた。


「つ、杖の色が違う! な、何ですかこれは!」


「ハハハ、気にせずいつも通りに使ってみろ」


 ゲンは意地悪そうに笑ってそう言った。


「はっ、はい! 燃え尽きろっ、おぞましき怪鳥!!」


 アトリは鳥形の魔物に、炎魔法を放った。そういえば、アトリの魔法のセリフが日に日に過激になっているのは、気のせいだろうか。


 そしてその炎魔法は、一撃で怪鳥を燃やし尽くしてしまった。


「す、凄い……」


 魔法を放ったアトリ本人が驚いている。この魔物とは何回か対戦をしているが、一撃で勝利したのは初めての事だ。魔法のパワー自体が底上げされているのだろう。


「あっ! 俺のつかも変わってる!」


 よく見ると、俺の武器も色とディテールが少し変化していた。端的に言うと、グレードアップしている? そんな感じだろうか。


「昨日の大蛇を倒したときの経験値が凄かったからな。レベルアップに伴って、俺たちの武器もパワーアップしている。もちろん、俺とクイナの武器も強化されてるぞ」


「なるほど……ゲンがレベルを上げなきゃとか言ってたのは、こういう事だったのか……アタシのは、どこが変わったのかよく分かんないけど」


 アトリは自分のグローブをジロジロと見て言った。いやいや、俺が見ても違いは分かる。クイナらしい反応に俺は笑った。



「ところで、ゲン様。ヨタカ様とホウクたちをやっつけるってお話しですが、具体的にはどのようになさるのですか?」


 再び歩み出すとアトリが聞いた。


「うーん……正直、今の所良い考えは浮かんでいない。ヨタカは同志の数を集めることと、カイゼたちの内部から反乱を起こさせたいとは言っていた。——だが、奴らの堅牢な城はそう簡単には落ちないだろう。武器も潤沢にある」


「——ゲンって奴らの城とか行ったことあるのか? 何でそんなに詳しいんだ?」


 ゲンは露骨にしまったという顔をした。


「ま、まあ、仮にも神の使いだからな……もちろん、ユヅルも知っているぞ」


 おい、ゲン……


 こういう時、咄嗟に適当な嘘を付くのはやめてくれないだろうか。ゲンがいない時に質問をされたら、困るのは俺なんだから……とりあえず、会話の流れを変えなくては……


「そっ、それで? 次の目的地は?」


「北部最大の村、カナリー村に行く予定だ。そこで、カナリー村の人たちとイグルとの距離感を確かめようと思う。それが終われば、カイゼの城へと向かう」


「カイゼの城? まだ、どう攻めるか考えてないってのに?」


 クイナの言うとおりだ。確かに、今の時点でカイゼの城へ向かう理由はよく分からない。


「あ、ああ……ラスボス……魔王はカイゼの城の近くにいると思うんだ。そこで魔王をやっつけて、ひとまず魔物討伐を終わらせる」


 ああ、なるほど……


 ゲンはきっと、カイゼの城の近くにラスボスの卵を配置したのだろう。最初のシナリオでは、ラスボスを倒してカイゼの城で歓迎を受ける。そんな感じを想定していたのかもしれない。


「それなら一気に、カイゼの城へ行こうぜ! 大蛇にも勝ったし、武器も強くなってる! もういけるんじゃないのか!?」


 クイナらしいセリフだった。


「まあまあ、クイナ。北へはまだまだ時間が掛かる。ゆっくり行こうよ」


 俺が言うと「それもそうだな」と、クイナは笑顔で返してきた。

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