「前方! 魔物の気配ありです!」
いつものようにアトリが一番先に検知した。ところが少し進むと、ちょうどその辺りに三人の男がいる。見た感じ村人ではないようだ。服装を見るに、兵士かもしれない。
「——お前らは誰だ? どこへ向かっている?」
先頭にいた、ガタイのいい男がゲンに聞いた。もう一人は怪我をしているのか杖をつき、残りの一人はその男を支えていた。
「俺たちはラーク村の者だ。今はカナリー村へ向かっている。そちらは?」
「そっ、そちらはだと……!? 俺たちの
ガタイのいい兵士は、語気を荒げた。だが、アトリとクイナに目を留めると、声色を変えた。
「ところで、可愛いお嬢ちゃんたちも一緒じゃ無いか。そんな奴らと
「——や、やめろ、ジェイ。俺たちはカイゼ様の兵だぞ。品位を落とすような事はするな」
杖をついた、見るからに善人そうな男が言った。だが、ジェイという男は「知るか」と言うと、アトリの元へと詰め寄った。
「な? いいだろ? 俺たちと一緒に行こうぜ」
それを聞いた俺は、ジェイの肩に手を掛けていた。
「い、いい加減にしろ……俺たちは、この子たちと一緒に魔物討伐をしてるんだ。邪魔をするな」
俺はキレていた。多分、生まれて初めての事だ。
殴り合いのケンカはおろか、口ゲンカでさえしたことが無い。そんな初めてのケンカ相手は、大昔の異国人だった。
「なっ……なんだ、この若造がっ——」
ジェイが俺に掴みかかろうとした瞬間、地面から大型のムカデが飛び出してきた。
「ユヅル様、
俺はジェイとの事で気が高ぶっていたのか、瞬時に抜刀し、ムカデを一刀両断にした。
「ユヅル! こいつは切断すると何体にも分裂する! 頭を潰さないと死なん!!」
ひとまず俺たちは一歩退いて、戦闘態勢を整えた。アトリとクイナは頭のあった側と対峙し、俺とゲンは胴体から下の部分と対峙している。ゲンが言ったとおり、切断された胴体部分も、みるみるうちに頭部が再生されてしまった。
「ユヅル! 俺がコイツを足止めする! 頭を縦に切断しろ!!」
ゲンは鋭い針を、向かってくるムカデに連射した。針はムカデの節々に突き刺さり、ムカデの動きを止めていく。
「ナイス、ゲン! これでも喰らえっ!!」
俺はムカデの両顎の隙間目がけ、剣を振り抜いた。ムカデは『グギュッ』という悲鳴を上げ、頭から縦に両断された。
「そっちはどうだ!?」
俺が振り向いた時、ムカデはアトリによって既にカチコチに凍らされていた。そして、地面目がけて振り下ろしたクイナのパンチが、ムカデの頭を粉々に叩き潰した。
ジェイという男は、地面から飛び出したムカデに弾き飛ばされたのか、尻餅をついていた。顎はガクガクと震え、言葉が出てこないようだ。
「ラーク村の方々、仲間が失礼をして、大変申し訳ございませんでした……私はカイゼ様に仕える、ウトウと申します。それにしても、あなたたちの力はどこで身につけられたのでしょう……きっと、我々が何十人と束になっても敵わない事でしょう」
杖を着いた、ウトウという男が言った。
「まあ、俺たちの事はいい。ところで、あなたの怪我は? 魔物にやられたのか?」
「ええ……全く敵わず、逃げるのが精一杯でした。魔物討伐の人員を募る旅に出ているのですが、私がこんな事では先が思いやられます」
魔物討伐の人員……
彼らは今から南に下り、カイゼの城を守る人員を募るという。いや、必要人数を聞いた限り、強制に近いのだろうと思う。
「私たちは今、中部にあるカイト村に向かっているのです。私はカイト村の出身で、ヨタカという有能な仲間がいます。彼ならきっと、良いアイデア、そして人員を割いてくれるだろうと期待しているのです」
「そうか、君はヨタカの友人だったのか……」
「ヨ、ヨタカをご存じで!?」
俺たちはカイト村での事を話した。だが、共にカイゼやホウクを倒そうと決めた話は、もちろんしていない。ゲンは少し確かめるように聞いた。
「ウトウ……君はなぜ、ヨタカほどの若者が村に残っているか知っているか?」
「ヨ、ヨタカがですか……? 残念な事に獣に襲われて、腕を無くしたからです。それが無ければ、カイゼ様の
やはりウトウは、ヨタカの本心には気付いていないようだ。ヨタカはウトウに対して、どのような対応を取るのだろうか。
「ところで……人員が必要というのは、どんな状況なのだろうか?」
「カイゼ様の城の近くで、城の大きさほどもある化け物が発見されたのです。こんな奴が城に近づいては
俺たち四人は顔を見合わせた。ラスボスである魔王は、とんでもないサイズの化け物らしい。俺たちの武器でなんとかなるのだろうか……
「ほ、他に何か特徴はあるだろうか? 些細な事でもいい、教えてくれないか」
「他の特徴ですか……当初は攻撃をしても反撃をしない、マヌケな化け物とバカにしていたのです。それ故、我々は『グドン』と呼んでいました。なのに、大砲を撃ち込んだ途端凶暴になり、外壁を破壊されるまでに至ったのです。実のところ、人員を補強したところで、どうにかなるとは思えないのですが……」
きっと、愚鈍なイメージだったから、グドンなのだろう。大砲以外の攻撃はダメージが小さすぎて、攻撃と認識していなかったのかもしれない。
ただ、大砲に怒るという事は、グドンは大砲にも耐える化け物だという事だ……