カナリー村は、今まで訪れた中で一番大きな村だった。村自体が立派な城壁で囲われており、村への入口は大きな門で閉ざされている。
「これは村というより、要塞都市だな……」
ゲンは大きな門を見上げて言った。アトリとクイナも呆けたように城壁を見上げている。
「——ところで、どうやって村に入るの? 許可とか必要なんじゃない?」
「だよな。俺もどうやって入ろうかと、考えていた所だ。——お?」
そんな会話をしていると、その大きな門がキリキリと大きな音を立てて開き始めた。門の隙間から、武装した一団が見えてくる。結構な数だ。
門を抜けた一団がこちらに近づいてくると、その内の一人が声をかけてきた。
「お前たちはどこの者だ? 今から、どこへ行く?」
その兵は、俺たちの衣装を舐めるように見ながらそう言った。確かに、この島では見慣れない衣装に違いない。特に、アトリとクイナに関しては。
「俺たちはラーク村からやってきた者だ。カナリー村に入って、グドンの事を聞こうと思っていた。詳しい者はいるだろうか?」
「——グ、グドンだと? そのまま待ってろ」
兵はそう言うと、一団の隊長らしき人物の元へと駆けていく。報告を受けたであろう隊長は、俺たちの元へとやってきた。
「カナリー村のダックだ。カナリー村の事は、カイゼ様に一任されている。先に言っておくが、俺に適当な事や嘘は言うなよ。それは、カイゼ様に対して刃向かったと同義になると思え」
ひ弱そうな小男にも関わらず、ダックという男の態度は大きかった。
「俺は、ラーク村から来たゲンだ。俺たちもそちらと同様、ホウク様に今回の事を一任されている。俺たちは対等だと思うが、どうだ? それとも、ホウク様の扱いは下になるか?」
ゲンは凄みを効かせて、そう返した。
「ホ、ホウク様か……で、お前たちが一任されているってのは何の事だ?」
「さっきの兵にも言ったが、グドンの事だ。俺たちはグドン退治を任命された」
ゲンがそう言うと、カナリー村の一団は「おおーーー」と歓声を上げた。
「グドン退治を任命されただと……? 俺たちこそ、カイゼ様から勅命を受けてグドン退治に向かうところだ。——そもそも、お前たちのそんなひ弱な装備で何が出来るって言うんだ? 見ろ! 大砲まで率いている俺たちの装備を!!」
「なっ、なんだと! アタシたちの事を知らずに、よくもまあ! アトリ、とびきりの魔法を見せてやれ!」
クイナがそう言うと、アトリはキョロキョロと辺りを見回した。
「では……ちょっとしたショーをお見せします。先に言っておきますが、私は自然を愛していますので、植物を傷付けるような事は致しません。——では、あちらに見える大木にご注目を」
アトリはそう言うと、魔法の杖を天に向けた。
「天を
ビクッとするほどの大声で、アトリは魔法を唱えた。直後、『ドドーン』と腹に響く低音と共に、巨大な
カナリー村の一団は、口を開けたまま突っ立っている。その強烈な落雷の前に、言葉も出ないようだ。
「た、大木に傷一つ付いてないなんて、こっ、こんな魔法はまやかしだ!! 本当の戦いになった時に逃げ出すなよ! 今回はホウク様の任命って事で大目に見てやるがな!」
ダックは、そう言って自分の定位置へと戻っていった。ホウクに任命されたという嘘は見抜けなかったが、アトリの魔法がまやかしだと言ったのは間違いではない。見る目があるのかないのか、よく分からない男だ。
そんなダックとは打って変わって、一団の若い兵たちは俺たちに興味津々のようだ。
「ク、クイナ様はどのような攻撃をされるので?」
「アタシはパンチやキックが主な攻撃だ。そして、ゲンは砲撃手、ユヅルは剣の使い手だ」
クイナが説明すると、若い兵たちは「ほーーー」と声を上げた。
「あっ! ——南の方角から魔物が接近しています! 気を抜いていたようです、すみません!」
アトリが皆に通る声で言った。すっかりアトリを信用しているダックの砲兵は、すぐに大砲を撃つ準備を始めた。
「お、おい! 魔物が来るなんて分かるわけが無いだろう! 進軍を止めるな!」
ダックがそう言った直後、周囲一帯が闇に包まれた。
——影!?
「うっ、上だっ!」
一度対戦したことのあるドラゴンだ。飾りかと思っていた翼だったが、本当に空を飛べるようだ。ドラゴンは『ズーン』という低音と共に着地をすると、前方にいたダックが慌てて後方まで下がってきた。
「う、撃て! 大砲を撃て! 俺たちの攻撃力を見せてやれ!」
ダックに言われずとも、砲兵たちはすでにキリキリとドラゴン目がけ照準を合わせている。そして数秒後、轟音を上げて飛び出した砲弾は、ドラゴンの左腕を吹き飛ばした。
「こ、硬化しているドラゴンの腕を吹き飛ばしたのか……思ったより、攻撃力があるな……ユヅル、あそこまでダメージを受けていたら、もう硬化は出来ないはずだ。斬り捨ててこい!!」
ゲンに言われ、俺は一団から飛び出した。
走りながら柄を引き抜き、3メートル級の剣を生成させる。周りにいるギャラリーのために、意味のない炎の渦を刀身にまとわせながら。
「あの世で兄弟に会ってこい! うりゃああああっ!」
現世だと絶対に言わないようなセリフを吐きながら、俺はドラゴンの眉間めがけ剣を振り下ろした。ゲンが言ったようにドラゴンは硬化しておらず、まるでソーセージを切るように、スパッと縦に両断された。
大歓声と共に、大きな拍手が巻き起こる。アトリの魔法と俺の攻撃で、俺たちはこの一団を完全に掌握できたと言っていいだろう。