アルフレッドとの結婚生活は、ジュリアにとって「耐える」ことそのものだった。社交界での「飾り物」としての役割を果たし続ける一方、私生活では完全に孤立していた。彼はほとんど屋敷に姿を見せることがなく、帰宅しても彼女に一言もかけないまま書斎に籠るのが常だった。
彼女が持つ公爵夫人としての役割は、屋敷の維持や使用人への指示など形式的なものでしかなかった。それすらも侍従長がほとんどを取り仕切っており、ジュリアが関わる必要はないほどに整備されていた。
「私の存在価値は何なの?」
ジュリアは広すぎる寝室で一人つぶやき、虚しさを感じる日々を過ごしていた。
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冷淡な日常
日々のスケジュールは驚くほど単調だった。朝は決められた時間に起床し、豪華な朝食が用意されるが、アルフレッドが同席することはまずなかった。彼は早朝から仕事に向かうことを理由に、食事を共にすることを避けていた。
「公爵様は今朝も早くにお出かけされました。」
侍女が事務的に伝えるその言葉が、毎朝の日課のように耳に響いた。
ジュリアは広いダイニングルームで一人静かに食事をとった。テーブルには彼女一人分の食器しか並んでおらず、侍女たちも必要最低限の言葉しか交わさない。その孤独感は、徐々にジュリアの心を蝕んでいった。
食事が終わると、ジュリアは庭園を歩いたり、書斎で本を読んだりして時間を潰した。だが、どれも心を満たすものにはならなかった。使用人たちは彼女を尊敬しているように振る舞うが、実際には彼女を「冷たい夫の妻」として距離を置いているように感じられた。
彼女が一人で過ごす時間は無限に続くかのように思えた。広大な屋敷のどの部屋に行っても、豪華な家具や装飾品がジュリアを取り囲んでいたが、それらは彼女の孤独を際立たせるだけだった。
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アルフレッドの冷淡な態度
一度、ジュリアは意を決してアルフレッドに話しかけようとしたことがあった。彼が珍しく夕食に同席した夜、彼女は夫婦としての会話を試みた。
「今日は珍しくお屋敷にいらっしゃいますね。お仕事がお忙しい中、お時間を作ってくださって嬉しいです。」
彼女の声には、ほんの少しの期待が込められていた。
だが、アルフレッドは視線を皿の上から上げることなく、冷たく言い放った。
「必要があったから帰宅しただけだ。特に君と話すためではない。」
その言葉に、ジュリアの胸が痛みで締め付けられた。彼の冷たい言葉は、彼女がどれだけ頑張っても二人の距離が縮まらないことを改めて感じさせるものだった。
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社交界での役割
一方で、アルフレッドは社交界ではジュリアを「完璧な公爵夫人」として見せることを怠らなかった。舞踏会や晩餐会に出席する際、彼はジュリアの手を取り、社交界の貴族たちに彼女の美しさを誇示した。
「公爵夫人、なんと美しい方でしょう。」
「アルフレッド様も素晴らしい奥様をお持ちですね。」
そうした賛辞が飛び交うたび、ジュリアは微笑みながら礼を述べたが、内心では自分がただの「飾り物」に過ぎないことを痛感していた。アルフレッドが彼女を褒めることは一切なく、彼にとって彼女は必要な「道具」でしかないことが明白だった。
彼女はその役割を演じ続けるしかなかった。公爵家の面子を守るためには、自分の感情を殺して微笑み続けることが最善だと思ったからだ。
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孤独の中のわずかな希望
日々の孤独と冷淡な態度に耐えながらも、ジュリアはふとした瞬間にレオナルドのことを思い出した。結婚前、彼が語ってくれた優しい言葉が、彼女の心の奥底に小さな温かさを残していた。
「君には君自身の幸せを見つける権利がある。」
その言葉が胸の中で静かに響き、ジュリアは涙を流しながらも、その言葉に救われる思いがした。彼女が今感じている孤独や屈辱は、きっと永遠に続くものではない。彼の言葉が、彼女にそう信じさせてくれた。
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未来を模索する心
ジュリアは夜、一人で広いベッドに横たわりながら、天井を見つめて考えた。
「私はこのままでいいのだろうか……?」
自問自答を繰り返す中で、彼女は次第に小さな希望を胸に抱くようになった。アルフレッドの冷たい態度に押しつぶされそうになりながらも、彼女は自分自身の人生を取り戻すために動き出す必要があると感じ始めていた。
孤独な日々は続くが、ジュリアの心の中にはわずかに芽生えた希望が確かに存在していた。それは小さな火種だったが、彼女が未来に向けて一歩を踏み出すきっかけとなるものだった。
「私は、私自身の幸せを見つける。」
そう心に誓いながら、ジュリアはそっと目を閉じた。