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第60話 心の揺れと向き合う勇気

レオナルドからの告白を受け取った翌日、ジュリアは一人静かに庭で過ごしていた。彼の真摯な言葉が彼女の心に深く残り、何度も思い返されていた。彼女はこれまで愛という感情に背を向け、自分を守るためだけに生きてきた。しかし、レオナルドの言葉がそんな彼女の心に小さな変化をもたらしていた。



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愛の記憶と恐れ


ジュリアは白いバラの蕾にそっと触れながら、過去の記憶と向き合っていた。アルフレッドとの結婚生活で受けた裏切りや屈辱は、彼女にとって愛という感情を信じることを難しくしていた。彼女にとって、愛とは弱さを露呈し、他者に支配される危険を伴うものだった。


「愛……私にとっては、ただの幻想だった。」

ジュリアは小さく呟き、心の中に広がる恐れを感じていた。


しかし、レオナルドの言葉はその恐れとは異なる温かさを持っていた。彼の愛は押し付けるものではなく、彼女自身の歩幅を尊重しようとするものだった。それでも、ジュリアの中にはまだ葛藤があった。


「私は……また信じることができるのかしら。」

彼女は目を閉じて、自分の心の声に耳を傾けた。



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リディアとの会話


その日の午後、リディアがジュリアを訪れた。レオナルドからの告白について誰かに話すべきか迷っていたジュリアは、リディアにすべてを打ち明けることにした。


「レオナルドが……あなたに告白を?」

リディアは驚きと喜びの表情を浮かべた。「それは素晴らしいことじゃない!彼のような誠実な人が、あなたをずっと想っていたなんて。」


「でも、私はまだ彼の気持ちにどう応えたらいいのかわからないの。」

ジュリアは視線を落とし、正直な思いを口にした。「過去の傷が癒えきっていないのに、また誰かを信じていいのか、怖いの。」


リディアは彼女の手を取り、優しく微笑んだ。

「ジュリア、それは当然の感情よ。でも、レオナルドはきっとあなたを急かすようなことはしないわ。彼の気持ちを信じて、自分のペースで答えを見つければいいの。」


「自分のペースで……。」

ジュリアはその言葉を繰り返しながら、自分の中で少しずつ整理がついていくのを感じた。



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レオナルドとの再会


翌日、ジュリアは再びレオナルドを庭に招いた。彼は彼女の様子を気遣いながら、いつもと変わらない優しさで接してくれた。その態度が、ジュリアの心を少しずつ穏やかにしていった。


「レオナルド、あなたに感謝したいことがあるの。」

ジュリアはバラの蕾を見つめながら静かに話し始めた。「あなたが私に気持ちを伝えてくれたこと、それが私にとってどれだけ意味のあることだったか、今ようやくわかり始めたわ。」


「そう思ってくれるだけで十分だよ、ジュリア。」

レオナルドは彼女の言葉に安堵の表情を浮かべた。「君が自分の気持ちと向き合う時間が必要なら、僕はどれだけでも待つつもりだ。」


ジュリアはその言葉に救われる思いがした。彼の言葉には、これまで彼女が感じたことのない安心感があった。それは、彼女に新たな一歩を踏み出す勇気を与えてくれるものだった。



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心の変化


その夜、ジュリアは日記を開き、今日の出来事を記した。レオナルドと話したことで、自分の中に少しずつ希望が芽生えていることを感じたのだ。


「彼は私に無理を強いない。それがどれだけ私の心を軽くしてくれるか、彼にはきっとわかっているのだろう。」


ジュリアはペンを止め、窓の外に広がる星空を見上げた。彼女の心にはまだ迷いが残っていたが、その迷いは少しずつ薄れていくように感じられた。


「私は、過去を恐れるだけではいけない。未来のために前を向かなければ。」

彼女はそう自分に言い聞かせ、再びペンを取り、こう書き加えた。

「私はきっと、もう一度誰かを信じることができる。そのために、自分の心と向き合い続ける。」



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新たな決意


ジュリアは、自分の心が少しずつ変化していくのを感じていた。それは恐れを伴うものだったが、同時に新しい未来を切り開くための力強い一歩でもあった。


「レオナルド……あなたの気持ちに応えるには時間が必要だけれど、私はその時間を大切にしたい。」

ジュリアは静かに呟き、明日の自分に少しだけ期待を込めて眠りについた。



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結び


ジュリアは、レオナルドの真摯な愛情に触れたことで、自分の心に潜む恐れと向き合う勇気を得た。まだ完全に過去の痛みを乗り越えたわけではないが、彼の存在が彼女に新たな可能性を示していた。これからの道のりは決して平坦ではないが、ジュリアは一歩ずつ自分のペースで進む決意を固めたのだった。



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