「迅葉ちゃんは影でモテモテだからそんな余裕をかましていられるでザンス!
わてら裏に生きる者達は、女性と会話する事すら出来ずにいると言うのに……ああ女子が怖い!」
「モテモテだったらお前と帰ったりするか」
何言ってんだか、とカイムはボヤキ一人校庭へと歩き始めた。
「拙者もパンをくわえた女子とぶつかってみたい!」
それでもジャックは懸命にカイムに食い寄る。
「足を再生化して走ってたからマジ痛かっただけだぞ」
桜舞う四月、シチュエーションとしては素晴らしいかもしれない。だが相手は片足を再生化したシルバー・エイジだ。
走る速度は片足の力だけを利用しているにも拘らず時速三十キロは余裕だ。そんな人間の体当たりを受ければどんな人間でも病院送りになるだろう。
……全治二週間だった。
「空から降ってきた女子を受け止めたい!」
「俺は鎖骨が折れたけどな」
遅刻しそうだったからといってマンションの上を飛び越えながら移動するのはやめて欲しい。
背中に弱ホバリング能力再生化を持つ女子は足を滑らせ、落下時にカイムが両腕で受け止めたまでは良かったが、何処を如何したのか鎖骨がぽっきりと逝ってしまった。
あれは全治何週だったか。
「幼馴染にお弁当作ってもらいたいでございます!」
「わりぃ、それはいないわ」
残念ながら迅葉カイムに幼馴染は存在しない。存在はしていただろうが覚えていないので似たようなものだろうと思った。
「何故迅葉ちゃんだけそんなに……悔しい、悔しす!」
「お前は死にたいのか……」
「相手が美少女なら痛みなんて気になりませんわよ!」
「そんなもんかねえ」
女子に対してテンションが上がりすぎているジャックから目線を外し、カイムは他の生徒を見やる。
皆同じように第三地区を目指しているのか、まるで災害の大移動のようだ。
「こうなればあそこで、白黒はっきりつけるで!」
「あそこか……ふっ、今日こそはお前に痛い目を見せてやるよ」
「ほう、強がりでござるな……迅葉ちゃんと言えど二度と歯向かう気が起きないよう捻りつぶすでにゃーすよ」
お互いギラギラと瞳を輝かせ、妙な笑い声を口から漏らして足早に生徒達の間を縫って行く。
商業と娯楽施設が集中する第三地区に着いた頃には小さく息を切らし、一目散にゲームセンターを目指した。辺りには学校帰りの生徒たちが思い思いに息抜きをしていた。
「……ん?」
と、カイムの視界に違和感が入り込んだ。何がどう引っかかったのかは分からないが、足を止めて辺りを見回してしまう。
「あれか……」
視界に写り込んだ違和感。
それは他校の女子生徒の制服だった。
白いブラウスに胸元には赤いリボン、赤いチェックのスカート。その集団が仲良くベンチに座りカラフルなアイスを食べていた。
「ぬ、さすが迅葉ちゃん。お目が高いでござるにゃ」
ぬっと背中から顔を出してジャックはニフフと不気味に笑う。
「葵坂のお嬢様ではござらんか。可憐で清楚。うちの高校とは月とスッポンの差があるところでしょうーよ」
「葵坂……?」
カイムは記憶を総動員して名前を掘り起こす。確か学区の端の方にあった高校かと検索がヒットする。
「まぁ女子校ですから迅葉ちゃんが余り知らんのも無理ないでしょうよ。マニアの間ではかなりランクの高い場所ですからな、で迅葉ちゃんはどの子がお気に入りで?」
「どの子ねぇ……」
どの生徒も優しそうだが真面目で硬そうに見え少々近寄りがたいものがある。
「眉目秀麗、才色兼備、文武両道。専用カリキュラムはブリッドスタイルの開発、安定化。まさにエリート中のエリート。制服の可愛さも相まって全世界憧れナンバーワンじゃあらへん?」
「まあ美人さんは多いけど、俺には高嶺の花だな」
「迅葉ちゃんは欲があらへんなぁ」
ニシシと笑いジャックはゲームセンターへと入って行った。
(あの制服、見間違いじゃなければ『あの女』に似てるな……奴はブレザーも着てたから確証は無いけど)
返り血を浴び、理性を無くした少女。
昨日から関係するようなニュースは飛びかっていない。
ならば一時期のバグだったのか。
顎に手をあて深く考え込むがまだパズルのピースが足りないのか完成する絵すら見えてこなかった。