「くそぉぉ……負けた」
「いやぁ、ホンマ迅葉ちゃんは読みやすいのぉー」
ゲームセンターを出たところの自動販売機前、カイムとジャックは垣根に座りながら態度で勝敗を表している。缶ジュースを手にしているジャックはニマニマと笑い、拳を強く握り締めたカイムの肩を叩く。
「本日もごちそーさん!」
「何故一度も勝てないんだぁ……!」
「格ゲーで五勝、ロボゲーで五勝、レースで五勝、パズルで五勝。計二十勝の大勝利にゃん」
キラッとウィンクをしてジャックは気持ち悪く笑う。ジャックが特別に強い訳ではない。カイムとプログラムの波長が合わないだけなのだ。
「そもそもレスポンスが遅いんだよ。俺が反応しても機械がついてこねぇ!」
「またまた負け惜しみ~。そこを調整して合わせるのが、人間ってものじゃにゃーかに?」
「くぅ……俺はやっぱり史上最弱なのかぁ……!」
シルバー・エイジになる為の適正遺伝子が無いから再生化も出来ない。同じように無改造者のジャックにすら様々なところで劣る。
運動能力、学習能力、人間性は少なからず同等ほどだと思うが、やはり個性という面では負けているかもしれない。
『つまり他より秀でた才能は無い。容姿も何も全てが平均的で普通』
「ぐぁ!」
深々と胸に突き刺さった言葉は、先日出会った憎たらしく笑う少女の姿を脳裏に甦らせた。まるで『可哀相にのう…………』と笑われている気分になる。
「努力が勝利を呼び覚ますんでがんすよ。繰り返しあるのみですわい……ってなわけで、拙者は今日から修行に出るでござるよ」
缶をゴミ箱に投げ捨てジャックは首にかかったヘッドホンを頭に装着した。
「ゲーセンの大会が近日行われる予定ですからの!
オフ会にて『学校終わり修行の会』が組まれているでござる!
だから今夜から帰ってこない事があるかも知れぬが気にせんといてや!」
「あーはいはい、頑張って来いよ」
「優勝したら……プロポーズを申し込もうと、」
「誰が受けるか、さっさと行け!」
「この恋はいつ届くか……! でも拙者諦めんでござんす!」
明らかなる嘘泣きをしながらジャックは目元を隠して走り去って行くのであった。
「頼むから諦めてくれ……」
はあと溜息をつき、カイムは大きく伸びをする。
首を何度か回し辺りを見渡した。
ジャックとゲーセン二十番勝負をしてたから時間は随分経っているが、まだあの女子達は長々とベンチで話している。
女子の話は長いものだと解釈していたカイムには別段不思議では無いのだが。
和気藹々と楽しそうに話すお嬢様達を見つめ、やれやれと何度か頭を振り、意を決してカイムは立ち上がった。