部屋の電気を点けるといつもと変わらぬ室内がカイムを迎えてくれた。
何足か並んだスニーカーは殆どがジャックの私物であり、カイムの物はごく僅かだ。通路の左手には綺麗に片付けられた台所があり、室内の様子も朝出たときと変わりない。
十二畳程のリビングには左右にベッドが設置されており、右側は玩具や漫画本、CD、ゲーム機と散々な荒れ放題。
左側は少量の漫画本が散らばっているだけだった。
カイムはその少しばかりの本を備え付けの棚に片付け、ベッドに腰掛けた。
中央にあるのは二人が共同で使うテーブル。
静か過ぎる為、テレビでも点けようと思ったが、どうせこの時間では何もやっていないだろうと思いなおし、カイムはベッドに倒れこんだ。
「なんか……疲れた……」
棚にあるアナログ時計は小さな音を鳴らしながら深夜三時過ぎを指している。
これでは明日の学校に支障をきたすかもしれない。
(授業なんて寝てればいいんだが……)
普段からそこそこ普通に受けてきたのだ、少しくらい寝ていても問題無いだろう。
カイムは制服から着替えようともせず寝返りを打つ。
身近にあったタオルケットを掴み、丸まりながら体に被せる。
体はとてつもない疲労感に襲われていて何もしたくなかった。
(違うな……疲れてるのは……体じゃ……ねえ)
様々な情報を得て、日常とは違う行動に出たその日。
自分でも知らないうちに精神は削られていた。
部屋に到着し日常を思い出した途端、今まで考えていた事全てが深い霧の中へと吸い込まれてしまったようだ。
精神に引きずられるように体も疲れ果て、カイムはこのまま深い眠りへと落ちていく――が、意識は夢の中へと思う様に落下してくれなかった。
何度か寝返りを打ち、重すぎる目蓋をきつく閉じる。
(気付かなかったけど、今日は随分暑いな……)
閉じきった部屋の中だったからか湿気を含んでいてジメジメしている。
体も精神も眠りたいのに、粘りつく初夏の熱気がなかなかカイムを寝かせてくれない。
(……クーラーをつける気力すらねえ……)
瞳を閉じ横になっていればいつか眠れるだろうと思い、カイムはタオルケットに包まる。これではいつも起きる時間まで三時間も寝れないかもしれない。
それでもカイムは瞳を閉じ続けた。
(案外野宿もありかもな……)
見送らせろと言った少女――ジーンの姿が脳裏に浮かぶ。
彼女は無事に寝床へ戻れただろうか。
(やっぱ無理にでも連れて来た方が良かったかな……熱いとか狭いとか文句すげー言いそうだけど……)
まどろみの中でジーンは部屋の中に入るなりまずは男臭いと文句を言い、ジャックのベッドの上を勝手に物色し、ゲーム機やら何やらに興味を示す。
あれでいて結構世間知らずに見えるから、大体の事は想像がついた。
いたら絶対に睡眠は取れないだろう。
(でも……それも悪くない)
きっと疲労なんてすっかり忘れそうだ。
カイムは身を丸まらせ、次までに部屋を綺麗にしようと己に提案し、お菓子でも準備しといてやるかと思案した。
ゲームをしたり、料理を作ってやったり、思いつく事なんて幾らでもある。
ジャックとも話をさせたら面白いかもしれない。
根本は合わなそうだが、変人同士だ。
きっと友達になれるだろう。
暑苦しく寝付けない夜。
カイムは意識が落ちるまで考え続けた。
疲労した体にその妄想は甘い幻想となり、静寂な夜に響く金属音を遮断する。
その誰にも気付かれぬ破壊音は陽が昇るまでいつまでもいつまでも――鳴り続けていた。