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第34話 相川の診察

「さて、それではパパッと調べちゃいましょうかね」


 丁度同じ頃、とある病室にてメロウは腕まくりをしながらベッドに寝かされている女生徒――相川絢を診察していた。


 相川は一糸まとわぬ姿になっており、長い白髪も相まってやけに色白な印象だった。


「えっと、体内状況における変化は……データ上ではホルモンバランスが崩れてる……かな?

 でもこれは年頃の女の子だもんね、うん。

 あとは……特にこれといって変わりない?

 え、そんな事ってありえる?」


 独り言をこぼしながらボールペンを口に咥え、ムーと唸る。


 見た感じの変化は黒髪から白髪へと変化した事。


 肉体の損傷は軽度のものであり自然回復可能。


 シルバー・エイジとしての能力は身体鋭利化と内部燃焼機関の再生化。


 現在彼女は深い眠りに落ちて目を醒ます事がないので、この場で確認する事は出来ないが、体内におけるナノマシン分布を見る限り異常という異常は見られない。


 つまり暴走する前と何の変化もないのだ。

 髪の色以外は。


「今まで暴走の事例なんてなかったからデータなんて無いけど……ま、プラグ繋いでみましょうかね。失礼しますよー」


 横たわる相川の首を持ち上げ、シルバー・エイジだけが持つ接続コネクタに直接ケーブルを繋いだ。


 そのケーブルの先には専用のパソコンが繋がっている。


「さーて、解析お願いしますよー」


 エンターキーをぽちっと押してメロウは椅子に腰掛ける。


 画面では長細いバーが徐々に伸びていき、パーセントで現在の解析率が表されていた。


「ふう……迅葉くんは無事かなー」


 背もたれがギィと苦しそうに音を上げた。


 終話直前の上司からの報告で現場に向かい事件に巻き込まれた学生を保護したのはメロウだった。


 聞いた話では『ただの学生と少女の保護』だけだったのだが、到着してビックリ、そこには気絶した迅葉カイムと死んだはずのマフラー少女がテロでも起きたような現場に存在していた。


 とりあえずメロウはまたしても偶然通りかかった風を装い(自分でもバリエーションが少ないとは常々思ってはいるが)、二人を確保、そして一番信用の置ける病院へと連れて行った。


 その際少女に話しかけようと思ったのだが、正直怖くて気が引けた。

 だってつい最近まで死んでいたのだ。


 ハラワタが外部に出そうになり、何故か血液が外に出なかった少女。

 自分がその腹を縫った。


 なのに彼女は元気にぴんぴんして歩いている。


 しかもその少女に『先日は世話になった』とか言われた日には何も言えなくなる。

 とりあえず微笑み返す事だけで精一杯だった。


「それに迅葉くんにつきっきりっぽかったし……いつでも聞けるよね」


 まるで最愛の夫が不治の病に侵されていてそれを見守るような妻と言って良いほど、少女は迅葉を見守っていた。


 大袈裟なほど心配した素振りを見せていたが『この基地なら大丈夫、治るよ』と励まし病室を後にした。


 なんせ次の任務の電話があったのだ、迅葉を見守っていたかったがメロウはすぐさま次の現場へ。


 着いた先は小さな廃病院だったが、放置されたのが最近だったのかあまり痛んでいなかった。


 そして、


「これだ……」


 ぐっすりと眠っている少女を見る。


 上司は軍から少女を権力で巻き上げた後、再びどこかへ消えてしまった。


 遊びに行っているようで仕事もしっかりこなしているのだから嫌になってくるとメロウは溜息をついた。


「そうだ、お洋服を着せてあげましょうか」


 見た感じ異常も無いし、このままではさすがに可哀相だと思い、自宅にあった洋服を相川へと着せていく。


 ピンクでフリフリで甘々なロリータ服だが仕方あるまい。


 とっさに掴んでしまったのだ。


 可愛いと言われても文句を言われる事は無いだろう。

 この相川絢の体格には多少小さいが今だけは勘弁して欲しい。


「あっ、もうちょっとですねー」


 うきうきしながらパソコンの前に戻り、お気に入りのカップに入れたブラックコーヒーに口を付けた瞬間、ゲージは百パーセントを示した。


 と、同時に、ボンッと爆発音が部屋に炸裂した。


「動くな!」


 手に銃を構えた白衣の男性が四人病室内に突撃してきた。

 予想外の事にメロウは手に持ったコーヒーカップを地面に落とす。


「へ?」


 そして机の上からも聞きなれない爆発音が。


「ええ?」


 解析完了の文字を示したパソコンも突然爆発した。


 どうやら相川から流れるデータ量が多すぎてパンクしたらしい。


 白衣の男たちも何事かと思い煙を上げるパソコンを一斉に見つめる。


「え、ええと……ども……です……」


 事態を把握出来ないメロウはとりあえず頭を下げるのだった。


 地面にはお気に入りのマグカップがバラバラに砕け散り、黒い液体が徐々に染みを広げていた。


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