目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第38話 対シルバーエイジ武装

「行くぞライオン!」


 ちょうど開け放たれたエレベーターからカイムとライオンは走り出す。


 背中では怒号まじりの無線通信が聞こえた。


「穏便にいきたかったってのによ!」


 ここまで侵入しただけでもただの学生としては頑張った方かもしれないが、見つかってしまっては意味がない。


 ゴールにたどり着けなければ過程は関係ないのだ。


「はあ? ありかよ!」


 エレベーターを降りた先もだだっ広いコンクリートの広間だった。


 上の階と唯一違うのはエレベーターが巨大シェルターに変わったくらいだろうか。


 そして今その巨大シェルターが、真っ赤なランプを馬鹿みたいにくるくる回転させ、やかましい警報音を鳴り響かせる。


「ただの学生にやる事か、あのおっさん!」


 走る足を止めてエレベーターへ引き返そうかとも思ったが、逃げ場などない事に気づきカイムは再び全力で駆けだした。


 巨大核シェルターのドアはランプの光に合わせるように徐々に迫り上がっていく。


「今しかねえ」


 この機を逃したら研究所内へ侵入できなくなってしまう。


 そこから何が出てきてもカイムは引く気が無かった。


 たとえ三十人弱の武装兵士が出てこようとも――。


「む……無理かな?」


 隙間が大きくなるにつれ兵士たちの姿がしっかり確認できる。


 全員先ほどの兵士のようにガタイが良いわけではない、むしろ白衣も来ていて研究者のように見えなくもない。


「無理だろ!」


 疑問が断言へと変わった。


 研究者たちの両手足にはまるで西洋の鎧のように銀色のガントレットとブーツだけが装備されている。


 それが火花を上げてモーター音を散らし始めた。


 ブーツの両脇には小さな歯車が付けられており、地面と接触することによってスケートの要領で地面を移動できるようになっている。


 腕に付けられたガントレットも同じ原理だろう。


 肘にある歯車が回り筋力を増幅させている。


 見た目はレトロだが最新鋭の科学力が注ぎ込まれているのは一目瞭然だった。


「散るぞ、ライオン!」


 一匹と二人は迫りくる科学者たちを前にして目線を合わせ頷いた。


 カイムは左へ、ライオンは右へ。


 そして科学者の大多数はカイムへと走り寄ってくる。


(まあそうだろうな!)


 その装備で猫を追っても捕まえられまい。


 機動性はあるが細かい作業には向きそうもなかった。


 警報音が鳴り響く中、スピーカーからやけに憎たらしい子供の声が響いてきた。


『シルバー・エイジ相手の初実戦だ。存分にデータを回収してくれよ。凡人用に作ってやったんだからな、有効的に使え馬鹿共』


 ぐぃんと風を切る音が聞こえカイムはとっさに頭を庇う。


 すると先ほどまで頭のあった場所を重量感たっぷりの機械の腕が通り抜けていた。


「誰がシルバー・エイジだ!」


 もしかしてこれはあの男の嫌がらせだろうか。


 銃を奪われ騙された事の腹いせにシルバー・エイジと報告しこの人数を呼び寄せやがった。


(才能の無いただの人間だって、この世界に住んでるってこと知って欲しいぜ!)


 しかし知っていたからといって、この研究者たちの攻撃がやむ事はないだろう。


 速度は三十キロ前後を維持してカイムを早くも取り囲む。


 円の中心に立たされたカイムは前後左右を見まわしながらも逃げ道を探していた。


「どうする、どうする」


 ハッハッと短く息を切りながら知らず知らずカイムは声に出していた。


 視界の右から一人の研究者が剛腕を繰り出してくる。


 バックステップで避けるが背中からモーター駆動音が聞こえ、次の行動に移る間もなく背中に車が衝突したような衝撃が走った。


「がぁはっ!」


 地面を転げまわりながらカイムは頭を抱える。


 駆動音が聞こえる度に衝撃が体を襲った。


 力を抑えているのか骨が折れる事はない。


 まるでなぶり殺しにされるように何度も何度も蹴られる。


 多くの足が唸りを上げて動かないカイムを蹴った。


『おい、モルモット。早く再生化して見せろよ! こんなんじゃ何の役にもたたねぇんだよ!』


 研究員の一人がボロ雑巾のようになったカイムを持ち上げる。


『もう終わりか? 材料がもったいぶりやがって。それともあれか? 緊急用再生化プログラムでも入ってるのか? ……続けろ』


 その声に研究員はカイムを空へと放り投げ、再び拳を叩きつける。


 カイムの体は空中でくの字に折れ曲がり、そして糸の切れた人形みたいにコンクリートの上を転がった。


 そこへ別の研究員が近寄り首元を確認し、カメラへと首を横に振った。


「ヨシュア所長、コネクタがありません。どうやらただの人間のようです」


 突然、研究員へと黒い影が飛びかかった。


 金色の毛色を持つ猫だ。


 だが研究員はカイムを片手で持ち上げたまま、自動追尾機能でライオンを叩き落とす。


「猫か。どうしますかヨシュア所長」


 ぐったりとしたライオンを見つめながら研究員は骨伝導マイクへと投げかける。


『僕は畜生が嫌いだ、外に捨ててこい。それとそいつは……はっ、そうだな。なかなか笑える。いいぞ。今すぐ僕の部屋へ持ってこい』


 気味の悪いほど上機嫌な声が聞こえ放送は途切れた。


 武装した研究員は再びシェルターの中へと戻っていく。


 先ほどまで鳴り響いていた警報音は消え、赤い照明も無くなりいつもの所内へと戻っていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?