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第40話 凡人と天才の出会い

 カイムが目覚めたのは独房のような部屋だった。


 天井には蛍光灯が二本。


 簡易ベッドが備え付けられ、部屋の端には綺麗なままの洋式トイレがある。


 大きさは四畳あるかないかほどだろう。


 軽く体を起こし、痛む箇所を確認する。


(……好きにやってくれたな)


 それでも大怪我らしきものが無いのは奇跡だと思う。


 黒く腫れているところはあるが行動に支障が出るほどではない。


 腕を何度か回しカイムは独房で立ち上がった。


 外側は全面ガラス張りでトイレの箇所だけがすりガラスで覆われている程度。


 念の為ドアノブを捻ってみたが、当たり前のように施錠されていた。


 ガラスケースの外側に見えるのは一回り大きな白い部屋。


 研究機材が並び、人が寝かせられそうなベッドや何に使うのか分からない機器が多数置いてある。


(人体改造でもやりそうな部屋だな)


 シルバー・エイジを作る専売特許はガリアドアが握っている。


 その為他国は血眼になってその科学力に追いつこうとこういった設備を多数そろえたがるのだ。


 念のためこのガラスの壁も叩いてみるか、とカイムが思ったそのとき再び地面が揺れた。


 侵入したときより大きく、とても長い。


 直下型の縦揺れ。


「またか……」


 地下に近い分、地震が多いのだろうか。


「へえ、これがガラクタか」


 声のする方に振り向くとそこには右目に髪がかかり白衣を着た研究員……のような子供が立っていた。


「見た感じ――ただの凡人だな」


 声の感じで聞いた事があるなとは思っていたが、イラつく言葉遣いでカイムは思い出した。


 先ほど武装研究員に指示を飛ばしていた奴だ。


「ただ、でも無いか。

 手ぶらでこの研究所に踏み込むなんて余程の馬鹿か或いは天才……」


 そんな事あるはずないか、と少年は小馬鹿にしたように笑った。


「お前、ここのだよな」


「おい、何しに来た」


 カイムの質問を潰すように少年は答える。


「人の話聞けよ……お前に教える必要ないだろ?」


「質問しているのは僕だ。

 答える義務がガラクタにはあるんじゃないの。

 下等生物のくせに粋がるなよ」


 その瞳は淀みきっていてカイムが知る限りで一番ドス黒い目だった。

 カイムは子供を見ながらネクタイを緩める。


「何で最近会う子供はみんなこんなに偉そうで、寂しい奴ばっかりなのか……社会に問題があるよな」


「僕をその辺のガキと一緒にするな!」


 ドンと強化ガラスを足で蹴りつけ少年は怒鳴りちらす。


「人類最高の頭脳を持ち、機械学の権威ヨシュア=モリヤだぞ、お前のような何も持たない――この基地でシルバー・エイジですらないガキとは違うんだよ!」


「お前、友達いないだろ……」


 またひとつ窓ガラスを蹴られる。


「不必要だ。僕にはEG達がいる。そんなモノいても邪魔なだけさ。

 他人と違うだけで人を見下し、すぐ暴力に訴えたり姑息な手段をとる。

 馬鹿共の集まりだ! 集まらなければ何もできないくせに……弱者共めが」


 感情を剥き出しにヨシュアは何度もガラスを蹴り続ける。

 舌打ちを続けては親指をがりがりと噛んだ。


「ほら、何も持たないお前は何しにここまで来たんだ。

不可視の梟ヒドゥン・オウル』でも『天照アマテラス』でもない。

 シルバー・エイジですらない凡人以下のガラクタは何の為に来たんだ!」


「何の為だって?」


 抑えられない怒りをぶつけるようにヨシュアはガラスを一度殴りつけた。


「分かってるだろ。自分の立場が。

 お前は捕らえられてるんだよ。

 僕の一言でいつでも死ねる。

 ガスが充満し即死できる。銃殺だってお手のものさ!

 だからもっと脅えろよ、恐れながら吐けよ!

 理解できない、何でただの凡人以下がこんなとこにいるのか、組織の者でもなく……<01>の為なんだろ――そうだ、そうなんだろ?

 他にあるはずがない。

 街中で見かけた<01>を利用するために追ってきたんだろ……なあ!」


 息を切らしヨシュアは何も言わないカイムを睨みつけた。


 数秒睨みあった頃、ヨシュアがポケットから携帯電話を取り出した。


「――なに? すぐ行く」


 パタンと携帯電話をしまい、再び取り繕った余裕の笑みを取り戻す。


「……はっ、まあいい。利用させてもらう。

 モルモットの為にもな。あんた短い命だったね」


 黙ってもばれてんだよ馬鹿が、と捨て台詞を残しヨシュアは部屋を出ていく。


「……お前じゃ解らねえだろうよ」


 拳を強く握り締めカイムはヨシュアが出て行ったドアを見つめた。


「何の為にここまで来たかなんてな」


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