膝を付き地面に倒れている研究員に目がとまり、周囲の人間たちは徐々に離れていく。
この現場にてその異彩がやっと気付かれたのだ。
「あっ、やべ」
金髪は苦笑いを浮かべ、徐々に囲まれていく様を眺めていた。
「……仕方ねぇなあ」
苦笑いした金髪を押しのけ、涙を拭きカイムは立ち上がった。
「それでこそ若者だ」
そういって金髪がカイムの背中を軽く押した。
カイムも覚悟が決まっていたのか、銃を構え武装を構える研究員たちに向かって走り出した。
「ジーン……俺はここだあ!」
白衣を脱ぎ棄て大声で叫ぶ。
その視線の先にはジーンの姿がある。
音速の言葉が武装研究員を突き抜け、ジーンの耳へと届いたと同時に彼女の瞳に光が灯る。
カッと眩い光がジーンから発光され、強い感情が漏れたことを証明した。
「来るな馬鹿者!」
ジーンが叫んだ拍子に研究員たちは一斉に銃を構え、カイムに狙いを合わせ発砲する。
多数の爆音が室内を裂き、人間が床に倒れる音が、
――一斉に響いた。
「何が起きた!」
ヨシュアが叫んだころには遅く、室内全体に真っ白の煙がばらまかれている。
視界零の世界の中研究員たちは混乱しながら発砲を繰り返した。
「発砲をやめろ!」「きゃああ!」「何だこれは!」
阿鼻叫喚の渦に飲み込まれる中、カイムは全力でジーンに向かって走った。
カイム自身も何が起きたのか全く把握できない。
この煙のせいで正面は何も見えなくて、うろたえる人間に次々激突する。
それでもカイムは関係なく走る。
ジーンは絶対にこの先にいる。
絶対にいる。
だから見えなくても平気だ。
武装した研究員に体当たりをかまし、銃を持った研究員を吹き飛ばしカイムは荒波を泳ぐように人の波をかき分ける。そしてその先には――、
「ジーン! やっと会えた!」
「カ、カイム!」
拘束している機械を外そうと、何度も腕の拘束具を引っ張ってみるのだがびくともしない。
「な、何故来た大馬鹿者! サヨナラだといったであろう!」
「俺は『またな』って言った!」
くそ、はずれねぇ、と呟き足の拘束具に取り掛かってみる。
「馬鹿者、馬鹿者!
私がどれほど苦労してカイムをひきはがしたと思ってるんだ!」
「んなこと知るか!
苦労するなら初めからどっかに行くな!」
「カイムのアホ! 馬鹿! 分からずや!
何も考えとらんのか、この実験は人類の――」
「だからなんだっつうんだよ!
それ以上言うと殴るぞ!」
ぐぬっ、とジーンは息を飲み込む。
「俺は考えてる、お前を助けて、いつか世界さえ救ってやる。
ここからならそれが出来る」
「大大大馬鹿者めが……」
てこずるカイムの頭を見つめながら、ジーンは小さくほほ笑んだ。
「なんで、外れねぇ……!」
立ち上がりどうしたものかと手を離したとき、金属音が鳴り響き、ジーンを拘束している拘束具が火花を散らした。
何かが物凄いスピードで拘束していた四か所を破壊したのだ。
「きゃっ」
「よっと……」
斜めに括りつけられていたジーンは地球の重力に従い前のめりに倒れる。
そこをカイムが反射的に受け止めた。
「は、離せカイム。今ならまだ間に合う。カイムだけでも逃げろ!」
「馬鹿はお前か!
俺が何しに来たと思ってんだ」
腕の中で暴れるジーンを抱えカイムは走り出した。
しかしジーンを助けてからというもの煙は一向に晴れず、目的地さえ全く把握できない。
「こっちだ学生!」
影が多数舞う煙の中でさっきの金髪の声が聞こえた。
カイムはその方向に全力で走ると、突然頭の後ろ辺りで声が聞こえた。
「忘れ物にゃん、そっちの娘の衣装でござる。
まっすぐ走るんでっせー、栄光に向かうように!」
「へ?」
声のした方に振り替えると、そこには誰の気配も無い。
「どうしたカイム?」
「いや、今なんか……」
まさか居る筈がない。
カイムは頭を振り正面を目指してただ走り出した。
地上に向けてただ唯一通じる緊急避難経路へと。