「死に急ぐなと言ったのにな」
やれやれと頭をかき金髪は煙が薄れていく中で立ち尽くす。
ごぉぉぉと誰かがやっと起動した排気口の音が煙幕を外部へ吸いだしていく。
「あら?」
すると武装した研究員たちが金髪を取り囲むように円を組んでいた。
その後ろには数多くの研究員が拳銃を構えている。
「何の真似かな、まじこえーんだけど」
わざとらしく肩をすくめて見るが、金髪を睨む瞳は変わりない。
「それはこっちの台詞だ、この猿以下のクズ野郎!」
激高したヨシュアが拳銃を片手に人垣を割って出てくる。
「ガラクタを何故逃がした……!」
指がトリガーにかかる。
「なんの事ですかねぇ」
「ふざけるなよ凡人。代わりなんていくらでもいる……今すぐ脳漿をここにぶちまけるか?」
「そいつぁ、勘弁したいなぁ」
へらへらと笑い手を振る。
「ほら追わなくて良いんですかい? 遠くにいっちゃいますぜー?」
「お前などいらない……!」
パァンと乾いた音が室内に反射し、右胸に玉が激突した金髪は仰向けに倒れ、
「ってて、メロウちゃんに修理してもらったばっかりなのに、ひどいにゃー」
――るはずだった。
「お前………………
スプラッター映画のバケモノのように膝の力だけでグイッと体を起こし、金髪はコキコキと首を鳴らした。
「機械人形とは酷い言われよう。
これでも頭だけは生身で新鮮だっぜーい!
けどこの胸は日常生活に支障をきたす程深く刻まれちゃったんですよん?
お宅がアースギアなんかでシルバー・エイジを取りこんじゃうから、取り憑かれちゃってあの有り様。
垂れ流れる人工血液誤魔化すためにお風呂にこもりっぱなしだったですよ」
「ゲインズじゃないな……」
何処からともなく本物の研究員の名前が呟かれる。
「いやー……今頃本物ちゃんは便器と仲良く添い寝してる頃だと思われます、はい」
金髪は首元に手をかけ、まるでゴムを剥がすように一枚の皮をめくった。
「ほんとは偵察だけだったんだんやが、迅葉ちゃんの為やもんなー」
マスクを脱ぎ棄て、何処から取り出したのか首に愛用ヘッドフォンをぶら下げる。
「貴様、天照か、それとも不可視の梟……!」
銃口を向けたまま悔しげにヨシュアは奥歯を噛む。
「つまらん事や、なんでも白とか黒とか色分けせんと気がすまんタイプかいな?」
白衣を脱ぎ棄てると、そこから出てきたのは、古い文献の時代劇にでも出てきそうな『忍者』の格好。
黒い忍び装束の中に鎖帷子を着こみ、短いマフラーを首に巻いて口元を隠す。
「お前ら……あの機械人形を絶対に逃がすなよ、殺せ!」
ギュウィィンとガントレットとブーツから起動音が唸りを上げ、ジャック目指して突進を開始する。
「あー、いいねいいね、その三流台詞ゾクゾクするわー」
音もなく苦無が一人の武装研究員の腕に刺さり、一人と多数の戦争が開幕した。