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第52話 決戦

『おお、こうやると繋がるのか―!

 まさか迅葉ちゃんもこれに乗って追ってくるとは、さっすが~!』


「ジャック、お前にジーンを連れ去る理由は無いだろ!」


『連れ去るとは言葉が悪いっすよ?

 拙者はお姫様にご同行してもらっただけでござるからして。

 それに理由は国の意向ですよん。

 拙者たちは指示で動いてるだけですからにん』


 ふざけている口ぶりだが、真剣そのものでジャックは語った。


『いやー、友情と仕事の間で揺れる男心、これは悩むにゃぁー!』


 そう叫び、空中でドリフトを決めたジャックは、向かってくるEGへとライフルのように細長い銃を向けた。


『ジャックここは退避しましょう。

 争う理由はないでしょう』


 ノリノリのジャックへとメロウは提案するが、彼はヘッドホンを耳に装着して、聞く耳を持たなかった。


『追ってくる王子様を迎え撃つのが悪役の務めでしょうーよ』


 スナイパーライフルから銃弾が飛び出す。


 全力で直進するカイムは避けようと意識するが、それよりも早く弾丸はEGの肩に着弾した。


「うああぁっ!」「きゃっ」


 機体が揺れスピードが減速する。


『左肩に被弾、現状ではシールド・イドを起動できません。

 次回からは避ける事をお勧めします』


 近い距離で撃つもんでもないんやけどなあ、と、ジャックはボヤキながら、二回目の狙撃を開始する。


「くっ!」


 被弾する度に速度が落ちる。

 前に進むだけでは埒が明かない。


『ゲーセンと同じ結果が待ってますどえー』


 前回二十連敗した記録が脳裏を過ぎる。

 だがあれは仮想世界における遊びの話。


 それにこの機体はやけに体に馴染むのだ。

 意識レベルで繋がっているせいか普段なら気になるレスポンスの悪さも感じない。


 何発目かの弾丸が右脚へと被弾する。


『装甲に異常が発生しました。

 左腕、両脚の稼働率が七十パーセント減退します』


 ジャックまでの距離はおよそ<1000m>と視界に表示される。


 スナイパーライフルにしては尋常じゃない装填速度で次の弾が射出される。


 カイムはトリガーにかかった指のイメージを頭で作り、引いた瞬間――手に力を込めた。


 相川から流れ出す熱量が一気にブースターに集められ、EGは海面を円を描くようにロールしながら弾丸を避けLGへと肉薄した。


 振り上げた腕がLGの持っているライフルをたたき落とす。


 そこからブースターの力で上空へと垂直に押し上げた。


『なんや、随分動きが良いでがんすな!』


「操作がゲームのように複雑じゃねぇ!」


 上昇中にLGはEGから離れるようにもがく。


 だがパワーではこちらの方が上なのか抜け出す事は出来ない。


『なら腕は貰うでござるか!』


 LGの腕が大破した左腕へと向かい、音を上げながら様々なケーブルを腕ごと引きちぎった。


 そして引きちぎった腕を武器に同じく大破した右足へと叩きつけた。


 武器となった腕は砕け散り、脚は折れるまでには至らなかったが衝撃はかなりのもので、皮一枚で繋がっている状況へと陥る。


 それでもカイムは上空へと昇り続けた。空の色が徐々に濃さを増す。


『体当たり程度で止まりはせぬよ!』


 腕を後ろに回し片方のブースターに手を突っ込む。


 LGの腕は熱量でぼろぼろに溶け砕けていくが、同じようにEGのブースターも片方が機能を失っていった。


「こ、このままじゃ、出力を維持できません……!」


 ガタガタと揺れる室内で相川がつぶやいた。


 モニターもいくつか死んでいて、砂嵐の映像が何面か見える。


「相川絢さん、その状態でもすぐ逃げられるか?」


 モニターに映るLGを睨みながらカイムは相川に質問した。


「は、はい……私は大丈夫ですが……」


 落ち着いた声に違和感を感じ、初めて振り向いて相川が頷く。


「そっか、ならそんときは気にせず逃げてくれ」


 頼んだ、とカイムはにっと笑い相川に微笑んだ。


『中間圏に入ります』


「あいよ、お前もぼろぼろにして悪いな」


『破壊される事に迷惑は感じません。

 何故、謝罪の言葉を?』


「何となくだ」


 ぐっ、と馴染むインターフェイスを握りなおし、カイムは武装の欄を脳内に開いた。


『迅葉ちゃん、そろそろ諦めたらどうかー?

 それともこのまま宇宙旅行にでも行こうって話ですかい?』


「そっちこそ、そろそろ諦めた方が良いんじゃねぇの?」


 ジャックにカイムは不敵に笑った。


「こっちは優秀なエネルギーさんがいる。けどジャック。

 そいつの原動力は光か、電気なんだろ?

 中間圏の温度維持まで耐えられるのか?」


 それにジャックは研究所から奪って来たばかりのはずだ。

 それなら燃料も十分だったとは言えないだろう。


『……良い所突きますなあ、さすがは未来のお婿さんだ』


 誰がお婿さんだ、と突っ込みたかったが脅しの延長上なので空気を壊す言葉は無視することにした。


『けど、EGは燃料が尽きるまで持たないでござろう!』


 LGの頭部がEGの頭を捕らえた。


『頭部ガトリングだと思われます。回避を』


「いや反撃だ」


 EGは抱きついていた右腕を離し、ガトリングの弾に頭部を撃ち抜かれながら右腕を構える。


 モニターが次々と砂嵐へと変化していき、ついには外部を示す映像が無くなった。


『これで拙者の完勝でござる!』


 馬鹿みたいに明るい声だけが響き渡った――、


「アースギア、右腕武装限定解除、やるぞ……!」


 肘の辺りから噴射を放つ。それは緑色の槍のように後方へと伸び、次に左右へ。


 十字の槍を勝手に形成した。


『ぬ?』


 ジャックも異常に気付いたのかガトリングを無くなった頭部から右腕にへ標準を変える。


 だが右腕が集めた緑色の淡い光が弾丸すらも打ち消していく。


「くらえ! 【なんか名前分からん、反撃の杭ノーネイム・リベンジバンカー】あぁぁ!」


 気合と共に振り抜かれた杭は、LGの頭部を掴み、肘の杭が制裁の如く撃ちつけられた。


 LGの頭部はまるで分子に分解されたように跡形もなく消える。


 杭を打ち込んだ腕は白い蒸気を大量に噴き出し――EGの右腕が爆発した。


 耐久力よりも攻撃力が勝ってしまったようだ。


 二つの機体は寄り添うように何度も体をぶつけながら地上への落下を開始する。


『……ま、まさか、そんなもんを……かっ……もっとったとは……』


 通信すらままならない声にカイムは大声で叫んだ。


「ジーン、今すぐ行くから待ってろ!」


 ガタガタと揺れる機体の中でカイムは立ち上がった。


「そこ、開けてくれ」


『もう少し待っていただいた方が安全かと』


「人間その気になればなんとかなるさ」


『分かりました。

 学習させて頂きます』


 バカッと突然ハッチが開き、室内に体が浮かび上がるほどの風が舞い込む。


「だ、ダメですよ。

 普通は死にます!」


 コードをコネクタから抜き捨て、立ち上がった相川が叫んだ。


「なんてんだろうな、こう言うの。

 


 そう言ってカイムはハッチに手をかける。


「EGも止めなさい!」


『アヤの言葉を却下します。マスター。

 現在残りのブースターでLGと機体をアンカー固定し衝撃を出来るだけ軽くしてます。

 それにより生存確率が数パーセント上昇します。

 それでは良いフライトを』


「ああ、ありがとう」


 飛び出そうとしたその時、ザザッと通信が入る。


『ああ、迅葉ち――ん、こっちはもう気分的――満身創痍な……だわ。

 武器も弾切れ……、燃料も空……せやから、メロウたんが乱心して偶然人を外に投げ出す事があるか……へんけど、――――――かんにんしてや』


 声を聞き終わらないうちにカイムは空へと身を投げ出した。


 何かに引っ張られるように体はEGから引き離され、あっという間に上空へと放り出された。


 だが意外に地上はもう目の前で、知らぬ間に結構落下してたんだな、なんて呑気に考えてしまう。


 そのとき、ポスッと胸に何かが転がり込んできた。


 丸まりながら。


 大声で何かを言っているが空気の抵抗で全く聞こえない。


 眼から大量の何かがこぼれ落ちては空へと昇っていくが、鼻水か涎かわからないな、と苦笑したがその声も届かない。


 だからカイムはその小さな手を強く握り締め、小さな小さな女の子を胸に抱きかかえた。


 水面に大きな水しぶきが上がったのはその数秒後だった。


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