ジャガイモの群れが走っている。
「おー、今日も元気だなあ」
首にタオルをかけたおじさんが、満面の笑みでジャガイモ達を眺めていた。こう見えて彼は大富豪である。
ジャガイモの養殖はこの町の主要な産業だ。太陽の光を浴びて虹色に輝く美しい鱗は、貴族達の観賞用に重宝される。性格は大人しく人懐こいのでペットとしても大人気だが、身体が弱いので育成は簡単ではない。
大貴族は高い金を払ってプロのジャガイモシッターを雇っているが、低級の貴族は奴隷に面倒を見させ、ジャガイモの具合が悪くなって色つやが鈍ると町の魚屋に売って新しいジャガイモを買うのだ。売り払われた哀れなジャガイモは魚屋で捌かれてフライドポテトになる。
養ジャガ業者はフライドポテトを見ると顔をしかめ、目を背ける。だがフライドポテトは貴族から庶民まで幅広く愛されているご馳走なのだ。
また、養ジャガ業者のおじさんは定期的に冒険者ギルドへ向かう。養殖の元となる天然のジャガイモを捕獲してもらうように冒険者へ依頼を出すためだ。冒険者達がジャガイモを捕まえる専用の罠も、彼が手作りしてギルドに売る。その代金でジャガイモ入手にかかる費用をいくらか補填するため、相場よりも安く品質のいいジャガイモを貴族に提供できるのだ。
「キョエエエエ!」
冒険者達は甲高い鳴き声を上げて空から襲い掛かってくるジャガイモを罠にかける。命がけというほど危険な仕事ではないが、ジャガイモを傷つけると途端に報酬が激減するので、慎重に誘導しなくてはならない。
捕まったジャガイモは、野生だった時の荒々しい気性を失い人懐こい愛玩動物へと変貌するのだ。なんとも不思議な習性である。
「いっぱい食べて大きくなれよ!」
牧場を元気に走り回るジャガイモに餌のトマトを与えながら声をかける。死んだトマトは食べたがらないので、活きのいいトマトを捕獲してくるハンターとのつながりも大事なのだ。
このように、この町の経済はジャガイモを中心に回っているのである。