俺は噂話をしている冒険者達に見つからないように物陰に隠れてその場をやり過ごした。
今まさに自分のことを噂している人達の前に姿を現すのが恥ずかしいし、たぶん「俺がその剣士だ!」とか言っても笑いものになるだけだろう。
ただ、おかげでいくつかの違和感の理由を知ることができた。なるほど、タマネギがやたら弱いと思ったのは俺が女神様から授かったチート能力のおかげだ。そしてとんでもない芸当をやってのけたから受付のお姉さんもびっくりしてたし、報酬を大幅アップしたんだろう。
いや、まてよ? いくらなんでも報酬倍増はやっぱりおかしいよな。何か裏があるのかもしれない。ギルドに目を付けられて、これから何か厄介なことをやらされたりするとか。もしくは騙されてどこかに売り飛ばされたり?
しばらくして話し声も聞こえなくなったので、とりあえず自分の部屋に向かった。前世で泊まったホテルとかではバスローブみたいなのがあったし、着替えて洗濯ができるかもしれない。
部屋にはベッドとクローゼット、それとタオルなんかがあった。バスロープではないけど簡素な貫頭衣がある。助かった。
よく考えたら宿の方も汚れた服を着た冒険者にそのままベッドで寝られたりしたら汚れて大変なことになるもんな。寝巻ぐらいは用意してあるか。
「明日、またギルドに行ってみよう」
当面のタマネギ汁問題は解決したので、汚れた服を洗って部屋に干しながら今後のことを考えるのだった。
◇◆◇
宿の食事はまあまあだった。実家は金持ちだったからかなり良いものを食べていたんだと改めて思い知った。今頃父さんと母さんはどうしているだろうか。いきなり息子がいなくなったから心配しているかもしれない。後継ぎとして期待されていたのに逃げ出したから怒っているかも。でもトマトは無理なんだ。仕方なかったんだ。
「おはようございまーす」
早くもホームシック気味になりながらギルドを訪ねた。いきなり捕まったりしないよね?
タマネギを狩った刺股を手に、ビクビクしながらギルドの扉を開けた。中に人はあまりいない。昨日の冒険者達も見当たらないようだ。受付のお姉さんが俺に気付いて挨拶してきた。
「あらイヌカワゴロウくん、おはよう。朝早いのね、感心感心」
普通の反応だ。俺は少しホッとしながら新たな仕事を求めて受付に近づく。するとお姉さんは昨日とは違う感じの獣皮紙を出してきた。
「んふふー、ランク認定試験を受けてみない?」
「ランク認定?」
なんだ、異世界によくあるSランクとかそういうやつか? でもそういうのって初めて登録する時かある程度実績を積んでからやるんじゃないの? 一件こなしたタイミングで認定試験ってのは変わってるな。
「冒険者の実力をギルドが認定するのよ。冒険者としての登録が必要ない代わりに、一回は依頼をこなしてちゃんと戦力になることを証明してもらった人にギルドが後見するの。身寄りのない子が普通に生活できるようにね」
そう言ってウインクする。なるほどね、俺のようなワケアリの子供は身寄りがなくて生きる手段を求めているようなのが多いんだろう。俺はただの家出少年だけど。なんにせよ身元保証があると一気に世界が広がるのは間違いない。
「どんな試験をするの?」
なんか強い人と戦うってのが定番だけど、まだ自分の強さがよく分かっていない俺にはちょっと不安な試験だな。タマネギのことを考えれば落ちることはないだろうけど、この町であんまり目立ちたくないんだよね。実家がすぐ近くにあるし。
「それはね、モンスター退治よ!」
おお、なんか王道っぽい試験だ。決まったモンスターを倒す試験なら、強すぎて話題になるなんてこともなさそうだし。
そして既にこの世界に慣れてきた俺にはわかるぞ、またなんか地球でお馴染みの野菜か何かと同じ名前のモンスターなんだろ。ジャガイモ、トマト、タマネギときたら次はなんだ? ニンジンか?
「イヌカワゴロウくんには、レッドドラゴンを退治してきてもらいます!」
……えっ、レッドドラゴン?
「ドラゴンって、あのドラゴン?」
「そのドラゴンよ!」
なんでーー!?