ひどい目にあった。
確かにタマネギは俺の思った通りの生物で、倒した時の反撃も予想通りだった。ただ、想像の数百倍(※ただの主観)強力な濃厚汁を浴びせてきやがったせいで、俺の目は激痛でしばらく使い物にならなかった。町まで帰ってきた今も涙がボロボロと出てきているが、俺がタマネギの死体を引きずっているからだろう、町の人々は特に何のリアクションもなく……いや、明らかに面白いものを見る目で俺を見ている。
ああ、俺には
「まあ、分かってて請けたんだからしょうがない。俺の見積もりが甘かっただけだ」
涙をボロボロと流しながら、カッコつけてみる。とても不毛な気分になったので、大人しく冒険者ギルドへと向かった。
「タマネギを狩れたのね! 大変だったでしょう」
ギルドのお姉さんが満面の笑みで迎えてくれる。こうなることを分かってて紹介したくせに! いや、それも理解した上で請けたんだ。文句を言うべきではないな。
「もー大変だったよー、真っ二つにしてやったらこいつの汁で目が痛くてさー!」
俺は苦労話をしつつ、二つに分かれたタマネギの亡骸をお姉さんに見せた。すると途端にお姉さんの顔から笑顔が消え、真剣な表情でタマネギを見つめている。これは仕事人の目だ、いくらの価値があるか値踏みしているんだ!
タマネギもトマトと一緒でちゃんと食べられるらしい。図鑑によると、キツネ色になるまで炒めてやるとニールのように芳醇な甘さになるという。ニールというのは果実のお酒だ。地球で言うところのワインのような飲み物だと思っている。子供だから飲んだことはないけど。
「……いいわ、これが報酬の1000ゼニルよ。タマネギの汁はしつこいから、今日はお風呂にでも入ってしっかり洗い流しなさい」
うおお、やった! 初めてお金を稼いだぞ! って、あれ?
「ええと、依頼書には500ゼニルって書いてあったけどなんで倍も貰えるの?」
そんなにいい感じのタマネギだったのだろうか。いくらなんでも、倍額は貰いすぎだ。
「うふふ、仕事が早いからボーナスよ。初依頼達成のお祝いも兼ねて、ね?」
お祝いも嬉しいが、早くこなすとボーナスが貰えるのか。ボーナス……なんて甘美な響きだろう。
「そうなんだ、ありがとう! ところで子供が一人で泊まれる宿屋ってある?」
俺もさっさと風呂に入りたいが、家出した子供を泊めてくれる宿はあるのだろうか? 本当にトマトから逃げたい気持ちだけで家出してきたからな……どうにかなるといいんだけど。
「あら、それなら隣にうちの系列店があるから利用するといいわ。冒険者用の宿だから子供でも関係ないわよ」
「ありがとう!」
助かった。俺はまたお礼を言って、宿に向かうのだった。何だか周りの人達がジロジロ見てくるけど、やっぱりこんな子供が冒険者ギルドにいるのは珍しいんだろうな。周りを見ても大人ばっかりだし。
「名前はイヌカワゴロウです」
「はーい、一泊二食付きで10ゼニルね」
宿屋の受付に行くと、特に何も聞かれずに受け入れてくれた。ていうか、自分の金で買い物した経験がほとんどないから金銭感覚がわからなかったけど、一泊二食付きで10ゼニルの世界で1000ゼニルの報酬というのは、凄い儲けなのではなかろうか。100日泊まれるぞ?
それともこの宿が特別に安いのかも知れない。そういえばこの受付の人もなんだか含みのありそうな笑顔を向けてくる。まさか騙されてたりしないよな?
日本で考えると安い宿でも一泊二食付きなら5000円ぐらいはするよな、そう考えると1ゼニルが500円ぐらいの感覚か。ってことは、タマネギ一匹狩って50万円の稼ぎってこと!? いやいや、やっぱありえねーって!
あっ、そういえば俺家出中なのに普通に本名を宿帳に書いちゃった。父さんが探しに来たらどうしよう。それに何も考えず宿に直行したけど、着替えがないな。風呂に入ってさっぱりしても、タマネギ汁まみれの服は着たくないぞ。
部屋の鍵を受け取りながらあれこれ考えていると、冒険者のパーティーと思しき集団がやってきた。仲が良いみたいで、賑やかに会話をしているのが聞こえてきた。
「みたか、あのタマネギ。上下に真っ二つだったぜ」
「ほんとかよ、どんな大剣豪があのクソ
「すっごいわよねー、そんな剣士様がいるなら会ってみたーい!」
「そうやってアイラはすーぐ男を漁ろうとするんだから」
「えー、素敵な男性と知り合うのは全ての女の夢でしょ?」
「そもそも男なのか?」
……えっ?