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不思議なダンジョンと願いを叶える魔石
不思議なダンジョンと願いを叶える魔石
相沢蒼依
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月17日
公開日
1.3万字
連載中
カトルッツ王国は、渦巻き模様の発疹と幻覚を引き起こす謎の病に蝕まれていた。民の希望であるリリアーヌ姫も病に倒れ、王国の未来は絶望に沈む。馬の世話係の少年アレックスは、姫との幼い日の約束「民を導いて」を胸に、病の治療法を求めて遺跡の試練に挑む。

第1話

 四方を険しい山に囲まれた静かな国、カトルッツ王国。林業と農業を基盤に、隣国との貿易で豊かさを築いてきたが、今その王国は死の病に蝕まれている。


 数ヶ月前から、原因不明の奇病が民を襲い始めた。体のあちこちに渦巻き模様の発疹が浮かび、高熱にうなされ、やがて幻覚に苦しむ――風邪とは明らかに異なるその病は瞬く間に広まり、ついには隣国との交易も途絶えた。


 街は人影もまばらで教会は患者で溢れ返り、夜ともなれば遠くから、うわごとのような叫び声が風に乗って届く。


「やめてくれ……誰もいないのに……ああ、燃えてる!」


 そんな幻覚に苦しむ声を、俺も何度となく耳にした。




「おいアレックス、聞いたか?」


 馬にブラシをかけている俺に、城の厩へ血相を変えて駆け込んできたのは、騎士のガレンだった。昔からの顔なじみで、城の中でも一番気さくに話せる相手だ。


「リリアーヌ姫が、例の病にやられちまったらしい」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


 ――リリアーヌ姫。


 剣を手に笑う、勇敢で明るいあの少女。かつて厩で俺に向かって「どんなことがあっても、怖がらずに進むのよ」と笑いかけてくれた彼女が今、死の淵にいるなんて。


「俺の両親も、あの病で死んだ。姫様までこのまま……」


 思わず言葉が詰まり俯く俺に、ガレンは首を振って言った。


「けどな、希望があるかもしれねえ。隣国の山に突然“遺跡”が現れたんだってよ。どうやら、どんな願いでも叶えるお宝が眠ってるらしい。まあ今のところ、誰一人戻ってきちゃいねえがな」

「遺跡?」

「ああ。でな、王国が今、その遺跡に挑む者を募ってる。もちろん、命懸けになるが……。アレックス、機転の利くお前ならもしかしたら――」


 軽口の裏にある真剣な眼差しを、俺は見逃さなかった。


 姫様を救えるかもしれない。


 そう思ったら、体が勝手に動いていた。


 俺は急いで身なりを整え、遺跡行きへの志願を申し出るため、城の執事長様に面会を願い出た。


 直接の口添えは難しいため、仲のいいメイドを通じて話を取り次いでもらう。

執事長様は、城内の采配を一手に担う多忙な人物。返事がいつ来るかもわからなかったが、幸いにも控室で待たせてもらえることになった。


 本来の持ち場を離れることにはなってしまうが、今は致し方ない。覚悟を決めて椅子に腰を下ろして、小一時間ほどで執事長様が現れた――予想より、ずっと早かった。



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