リラの薬草店での仕事が軌道に乗り始めてから、季節は秋へと移り変わっていた。木々は色づき、村の空気には冷たい風が混じり始めていた。そんなある日、リラがいつものように薬草の調合をしていると、店の入口のベルが軽やかな音を立てた。
「いらっしゃいませ。」
リラは笑顔で客を迎え入れる。しかし、次の瞬間、彼女の顔は驚きに染まった。
「……セリウスさん?」
そこに立っていたのは、旅人の青年セリウスだった。リラが追放され、この村にたどり着く途中で出会い、手助けしてくれた人物だ。彼は相変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。
「久しぶりだね、リラ。」
その声に、リラは胸の奥に暖かなものが広がるのを感じた。再会の喜びと同時に、彼がなぜこの村に再び現れたのか、疑問が湧いた。
「どうしてここに……また旅の途中ですか?」
リラが尋ねると、セリウスは肩をすくめて答えた。
「まあ、それもあるけど、君がこの村で頑張っているって聞いてね。少し様子を見に来たんだ。」
その言葉に、リラは顔を赤らめながらも微笑んだ。自分のことを気にかけてくれる人がいることが、少し恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
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再会の余韻
セリウスはそのまま店に腰を下ろし、リラが薬草を調合する様子をじっと見ていた。リラは最初、視線が気になって手が止まりそうになったが、すぐに集中力を取り戻し、調合を続けた。
「君、こんなに真剣に働くんだね。」
セリウスが感心したように言うと、リラは手を止めて彼に向き直った。
「もちろんです。ここで信頼してもらうためには、手を抜くわけにはいきませんから。」
その言葉に、セリウスは小さく頷いた。彼の表情にはどこか嬉しそうな色が浮かんでいた。
「そうやって前を向いて頑張る君を見ていると、僕まで元気をもらえるよ。」
リラは照れ隠しのように首を振った。
「元気だなんて……私はただ、この村でできることをしているだけです。」
セリウスはそれ以上何も言わず、ただ優しい眼差しで彼女を見つめていた。その静かな空気が、リラにとって心地よかった。
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セリウスの提案
再会から数日後、セリウスは再び薬草店を訪れた。その日はリラが店の片付けをしていたところで、彼は肩に大きな袋を抱えていた。
「リラ、これを見てほしい。」
そう言って袋の中から取り出したのは、大量の乾燥した薬草だった。リラが目を見張ると、セリウスは得意げに微笑んだ。
「旅の途中でいろんな村を回ったときに、君が使えそうな薬草を集めてみたんだ。まだ十分に乾燥していないものもあるけど、使い道があるんじゃないかな。」
リラはその言葉に感激した。薬草の調達は彼女にとって頭を悩ませる問題だったのだ。それを理解し、手助けしてくれるセリウスの行動に、心から感謝の気持ちが湧き上がった。
「ありがとうございます……こんなにたくさん、一体どうやって集めたんですか?」
リラの問いに、セリウスは笑いながら答えた。
「まあ、旅人の特権ってやつさ。いろんな土地を回れる分、こういうこともできるんだ。」
その言葉に、リラは改めて彼の存在の大きさを感じた。追放され、この村で孤独を感じながらも一歩ずつ前に進んできた彼女にとって、セリウスはまるで星空の下で輝く一番星のようだった。
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新たな目標
セリウスとの再会は、リラの中に新たな決意を芽生えさせた。これまで村の薬草店の仕事に集中してきた彼女だったが、彼と話すうちに、もっと広い視野を持つ必要があると感じ始めたのだ。
「この村だけじゃなく、周辺の村や町でも、もっと多くの人を助けられるようになりたい。」
その考えをセリウスに打ち明けると、彼は満足そうに頷いた。
「いいね。そのために僕が手伝えることがあれば、何でも言ってくれ。」
彼の力強い言葉に、リラは背中を押されたような気持ちになった。孤独だったはずの追放後の生活が、彼と再会したことで色を取り戻していくのを感じた。
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村人たちとの絆
セリウスの薬草の提供により、リラはさらに多くの調合薬を作ることができるようになり、村人たちとの絆は一層深まっていった。ある日、村の広場で子供たちがリラに駆け寄り、花束を手渡した。
「お姉ちゃん、いつもありがとう!お母さん、リラお姉ちゃんの薬で元気になったよ!」
その言葉に、リラは思わず目頭が熱くなった。かつて王都で感じることのなかった「真実の感謝」が、彼女の胸を満たしていった。
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未来への第一歩
夜、リラは宿屋の部屋で窓から星空を眺めながら、心の中で誓いを立てた。
「この村での経験を生かして、もっと大きな世界で人々を助けられる存在になりたい。」
セリウスとの再会は、彼女に再び未来を見据える力を与えてくれた。そして、その未来が自分ひとりではなく、村や周囲の人々と共に作り上げるものだということを、リラは初めて実感した。
星空の下、彼女の心に新たな希望の光が輝き始めたのだった。